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ID番号 05799
事件名 損害賠償請求控訴事件/同附帯控訴事件
いわゆる事件名 関西電力事件
争点
事案概要  会社が原告らを不健全分子として監視、調査、孤立化させる労務政策をとっていたことが労働者の思想・信条の自由を侵害するものであるとして慰謝料請求が求められた事例。
参照法条 民法709条
民法710条
日本国憲法13条
日本国憲法19条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 1991年9月24日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和59年 (ネ) 1072 
昭和59年 (ネ) 2221 
裁判結果 棄却(上告)
出典 労働民例集42巻5号752頁/労経速報1452号10頁/労働判例603号45頁
審級関係 一審/00257/神戸地/昭59. 5.18/昭和46年(ワ)1180号
評釈論文 岩村正彦・ジュリスト1017号181~184頁1993年2月15日/小俣勝治・季刊労働法164号211~214頁1992年8月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 当裁判所も、被控訴人らの控訴人に対する本訴請求は、原判決認容の限度で理由があり、その余は失当であると思料する。その理由は、次に付加、訂正するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。〔中略〕
 もっとも、被控訴人らに対してなされた前記認定にかかる各行為は、一部を除いて、転向強要等の思想、信条の自由に対する直接の侵害行為ではないし、個々の行為をみると問題視するほどのものではないものも含まれている。しかしながら、控訴人は、先に認定した労務対策の方針に基づいて、職制らをして被控訴人らの思想、信条を理由として右のような行為に及ばせたものであって、被控訴人らとしては控訴人の会社を退職するか自己の思想、信条を変えない限り右のような取扱いを受け続けることになる。したがって、右各行為は、控訴人の労務対策の方針に基づいてなされた一連のものであって、間接的に転向を強要するものであるから、被控訴人らの思想、信条の自由を侵害する行為に当たるというべきである。
 なお、控訴人の主張中には、被控訴人らに対する観察を強化したに過ぎない旨の主張部分があるが、使用者において、労務管理、人事管理の必要上或いは企業秩序を維持するために、被用者の動静を観察し必要な情報を収集することが正当な行為であることはいうまでもないものの、被用者は、使用者に対して全人格をもって奉仕する義務を負うわけではなく、使用者は、被用者に対して、その個人的生活、家庭生活、プライバシーを尊重しなければならず、また、その思想、信条の自由を侵害してはならないのであるから、使用者の被用者に対する観察或いは情報収集については、その程度、方法に自ずから限界があるといわざるを得ない。本件において控訴人が被控訴人らに対する観察、情報の収集としてなした行為は、勤務時間の内外、職場の内外を問わず、被控訴人らの行動、交友関係、特に、共産党或いは民青同盟との関係の有無を確かめ、或いは、これに関する資料を収集しようとしたものであって、また、被控訴人ら本人にとどまらず、その家族についても右の点についての情報収集の対象としたものであって(前述した甲第八〇号証の記載のうち、被控訴人らの家族に関する部分については、その記載どおり被控訴人らの上司が調査して前記労務管理懇談会で報告したものと認められる。)、使用者の従業員に対する監督権の行使として許される限界をこえ、被控訴人らの人権、プライバシーを侵害するものがあったといわざるを得ない。