ID番号 | : | 05808 |
事件名 | : | 遺族補償給付等不支給決定取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 加古川労働基準監督署長(明貨トラック)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 運送会社の経理担当者の脳内出血による死亡につき、業務災害でないとした労働基準監督署長の処分が争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法施行規則35条 労働基準法施行規則別表1の2第9号 労働基準法79条 労働基準法80条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 |
裁判年月日 | : | 1991年10月8日 |
裁判所名 | : | 神戸地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成1年 (行ウ) 5 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例601号6頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 訴外Aには、いわゆる基礎疾患として本件疾病としての高血圧症がかなり以前からあったことから、本件事故当時にはそれに基づく高度の血管病変状況にあったものであることが認められるところではあるが、本件においては、その血管病変につき加齢経過を超えて著しくそれを増悪させる急激な血圧変動や血管収縮を引き起こす過重負荷が、本件事故の直前少なくとも一週間程度以内の近接した時期に存し、それによって本件脳出血が発症したものであるとは到底認められない。 しかしながら、同じく右事実関係によれば、訴外Aの稼働状態は、少なくとも昭和五五年六月にB株式会社の経理を見るようになってから昭和五八年六月六日に本件事故が起きるまでの約三年間ほどは、それ以前の稼働状況に比してばかりでなく、一般的見地から見ても客観的にかなり多忙であったことも認められる。 そこで、訴外Aの右の長期に亘る多忙な稼働状況による肉体的あるいは精神的疲労がその基礎疾病自体を発症ないし進行させ、さらにそれに基づく血管病変を加齢その他の自然的経過に比して増悪せしめた結果、本件脳出血を惹起せしめたものであるか否かが検討されなければならない。 ところが、(証拠略)によれば、血管病変を惹起する高血圧性疾病を発症させ又は自然的経過を超えて増悪させる因子としては、医学上においても業務に基づく諸種の継続的な負荷との関連が疑われてはいるが、しかしこれらの継続的負荷(特に心理的負荷)については、それに対する生体反応には著しい個体差が存在することに加えて、それは業務外の一般生活にも同様に又は重複して存在すること等のことから、また、高血圧症自体並びに高血圧性脳出血の各発症のメカニズム自体も未だにその細部まで医学上確定されてはいない部分があることと相俟って、医学的にも未解決な部分があり、未だ右継続的負荷に関しては、高血圧症との相関関係の評価には困難なものがあると理解されている。 しかも、訴外Aには、特に高血圧症を発症させるような特定の疾病の存在は窺われないことは前認定のとおりであるから、一般的な医学常識からすると訴外Aの高血圧症は、その原因が明白でないことが多いいわゆる本態性高血圧症といわれるものであると推測しうるものである。 以上のような事実関係の下においては、前二において認定した事実をもってしても本件脳出血が訴外Aの業務に起因したもの、換言すればその間に相当因果関係があること、即ち、本件においては、訴外Aに存した本件基礎疾病が、主として前認定にかかる同訴外人の仕事がかなり多忙であったことによる肉体的ないし精神的負担により、その自然的経過を越えて増悪した結果であるものとは、未だ認定することができないものと言わなければならない。〔中略〕 原告は、C会社等の会社側に訴外Aの労働量及びその健康状態に対する労務管理に落ち度が存した旨主張しているが、前記二における認定事実からすると、訴外AはC会社の形式的には従業員ではあったが、身分的には社長等と親族関係にあったばかりでなく、C会社においては実質的には経営者の一員であって、その勤務時間及び仕事内容も会社就業規則ないし業務命令に基づくものではなく、会社の経営者の一員として自発的になされたものであったこと、また、訴外Aは、自らの意思で会社側の実施している健康診断等の検診を受けることを正当な理由もなく拒否するなどして、被雇用者の雇用契約に付随する義務である、又は、一般社会人としての自己責任として自発的になされるべき健康管理を自ら怠っていたものであることが明らかであるので、原告の右主張は採用できない。 |