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ID番号 05811
事件名 仮処分異議申立事件
いわゆる事件名 新大阪貿易事件
争点
事案概要  入社時における退職後三年間は競業行為をしない旨の特約に基づき、退職従業員の競業行為を差し止めた仮処分決定につき異議が申立てられた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 競業避止義務
裁判年月日 1991年10月15日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成2年 (モ) 53128 
裁判結果 認可
出典 労経速報1446号3頁/労働判例596号21頁
審級関係
評釈論文 小宮文人・法学セミナー37巻9号133頁1992年9月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-競業避止義務〕
 本件で競業避止義務負担特約が有効かどうかが問題になるのは、退職後三年間の競業避止を約した部分であるが、このような特約は、企業の従業員が在職中に職務上利用しまたは知ることのできたその企業の秘密や種々の情報を退職後に利用してその企業と競合する業務を行うことによって、その企業の利益を損なうような事態を招くことを防ぐ趣旨で、企業が従業員に約束させるものである。右のような企業防衛を目的とする特約の効力を無限定に認めると、被申請人もいうように、従業員の退職後の新たな職業、営業の選択を不当に制約してその従業員の行う公正な取引を害することにもなりかねないから、特約を有効と判断するには慎重でなければならないことはいうまでもない。
 しかし、本件では、被申請人は、その能力によって開拓したとはいえ、申請人の従業員として申請人の名で申請人のために開拓した得意先に対し、申請人を退職すると同時に設立して経営しているA会社によって申請人の取り扱う商品と同種の商品を販売するという申請人と競合する営業行為をしているものであり、それも、被申請人が申請人の営業の全般を掌握する地位にいた者として申請人の企業利益の防衛に高度の責任を負っていたにもかかわらず、自己が右のような地位にいたために保持し管理していた顧客に関する詳細な情報を退職にさいして申請人にほとんど伝えず、A会社の営業のために利用し、自己以外の申請人の従業員三名のうち二名までもA会社に入社させてA会社の営業に従事させ、またA会社が申請人のそのような営業を承諾しているかのように読める虚偽の案内をし、あるいは申請人の在庫品をA会社の営業のために無断で搬出するなど、申請人の利益を損ない、商品販売における申請人の競争力を減殺し、被申請人ないしA会社に有利な状況を作り出しておいて、申請人と競合する営業をしているのである。本件で申請人が防衛すべきものとしている企業利益は、申請人の得意先ないしそれに関する顧客情報であって、特許権ないしこれに類する権利やノーハウなどほどには特別な秘密保持を必要としないものではあるが、それを従業員がその利益のために自由に利用すれば、場合によっては企業の存立にも関わりかねないこととなる点において、右特許権等の権利利益と異なることのない重要な企業利益であり、企業が合理的な範囲で従業員の在職中および退職後のその自由な利用を制約することは合理性を欠くものではないといってよい。本件のように被申請人が自己の退職後に申請人において顧客情報を利用することがほとんどできないようにしておいて申請人の得意先を奪うといった競業の行為を、その行為の申請人に対する影響がもっとも大きい退職直後の三年間に期間を限定して、特約によって禁止することは、不合理ではなく、被申請人のいう職業、営業の選択の自由や生存権を侵すものではなく、公正な取引を害するものでもないというべきである。