ID番号 | : | 05817 |
事件名 | : | 障害補償給付支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 新宿労働基準監督署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 大工である労働者が住宅工事従事中に屋根から墜落して生じた精神障害の残存障害につき、八級より重い障害があるとして労働基準監督署長のなした障害補償支給処分を争った事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法施行規則40条 労働基準法施行規則別表2 労働者災害補償保険法15条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 障害補償(給付) |
裁判年月日 | : | 1991年10月28日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成1年 (行ウ) 97 |
裁判結果 | : | 棄却(確定) |
出典 | : | 労働民例集42巻5号803頁/労働判例594号22頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-障害補償(給付)〕 実務上用いられている障害等級の認定基準(乙第一一号証)によれば、障害等級第五級の一の二は「神経系統の機能又は精神の著しい障害のため、終身にわたりきわめて軽易な労務のほか服することができないもの」であり、独力では一般平均人の四分の一程度の労働能力しか残されていない場合がこれに該当するとされ、例として他人のひんぱんな指示がなくては労務の遂行ができない場合、又は、労務遂行の巧緻性や持続力において平均人より著しく劣る場合等がこれに含まれるとされる。また、第七級の三は「中等度の神経系統の機能又は精神の障害のために、精神身体的な労働能力が一般平均人以下に明らかに低下している」場合で、「労働能力が一般平均人以下に明らかに低下している」とは、独力では一般平均人の二分の一程度に労働能力が低下していると認められる場合をいい、労働能力の判定に当たっては、医学的他覚所見を基礎とし、さらに労務遂行の持続力についても十分に配慮して総合的に判断しなければならないとされている。さらに、第九級の七の二は「一般的労働能力は残存しているが、神経系統の機能又は精神の障害のため、社会通念上、その就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの」で、身体的能力は正常であっても、脳損傷にもとづく精神的欠損症状が推定される場合、てんかん発作やめまい発作発現の可能性が、医学的他覚所見により証明できる場合あるいは軽度の四肢の単麻痺が認められる場合など(たとえば、高所作業や自動車運転が危険であると認められる場合)がこれに該当するとされる。そして、右認定基準は、障害等級の認定における障害の程度の公正かつ適正な評価を実現するために定められたものであり、内容的にも特別不都合な点は認められず、これまでも実務上は右基準によって認定がなされてきたことからすると、原告の障害等級の認定の当否につき判断するに際しても右基準を参考にするのが相当である。 以上を前提に原告の障害の等級を検討するに、原告の精神的後遺障害は前記認定のとおりであるが、証人Aの証言によれば、WAIS知能検査による知能指数の検査が原告のそれをよく表わすと思われるところ、同検査の正常範囲は八〇以上であるが、原告は総合八八であり、知能的に平均人と比べて著しく低いとはいえないこと、同証人の判断によれば、原告の前記後遺障害を前提としても、大工や鳶職は出来ないと思われるが、人に使われてある程度の仕事は出来ると判断されることが認められ、また、〔中略〕現在の原告には精神病状態の慢性化による積極性、活動性、自発性、創造性、作業意欲がなくなるという陰性症状がでており、それが不当な処置を受けているという心因加重により増強されていることから、フルタイムでの大工の仕事が出来る可能性は薄いが、大工見習や大工の手伝いは可能であると判断されることが認められる。ところで、労災保険法に定める障害補償給付は、障害による労働能力の喪失に対する損失填補を目的とするものであり、そこにいう労働能力は、一般的な平均的労働能力を意味し、当該労働者が被災当時就労していた職種上の平均的労働能力を意味するものと解すべきではない。そして、原告が従事していた大工という職種は、一般的には、肉体的にも精神的にもかなり高度な能力が要求されるものであって、大工見習いや大工の手伝いしかできなかったとしても、そのことから一般平均人の二分の一程度の労働能力しかないとすることはできず、また、大工見習いや大工の手伝いが軽易な労務であるとも認められない。 そして、右認定の事実にからすると、原告の服することができる労務は、大工関係の仕事であれば、大工見習いあるいは大工の手伝い等、割合単純な労務に限られるであろうが、それ以上に、軽易な労務にしか服することができないとか、平均人の二分の一程度の労働能力しかないとまでは認められず、したがって、原告の後遺障害は障害等級第九級の七の二を超えるものと認めるには足りない。 以上のとおりであるから、被告が原告の精神障害につき障害等級第九級の七の二と判定したことに違法はなく、したがって前記当事者に争いのない障害等級第一二級に該当する頭部痛・頚部痛及び腰痛・背部痛と合わせて障害等級第八級に該当するものと認め、右級に応ずる額の障害補償給付を支給する旨の処分をしたことに違法はない。 |