全 情 報

ID番号 05828
事件名 療養補償給付不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 福岡中央労働基準監督署長(福岡市学校給食公社)事件
争点
事案概要  中学校の給食の調理作業に従事してきた女子の労働者に発症した「腰痛症」につき、業務災害でないとした労働基準監督署長の処分が争われた事例。
参照法条 労働基準法施行規則35条
労働基準法施行規則別表1の2第3号2
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
裁判年月日 1991年11月21日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 昭和60年 (行ウ) 20 
裁判結果 認容
出典 労働民例集42巻6号898頁/労働判例598号6頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 個別の作業に着目すれば同一作業を長時間持続するものとはいえなくとも、いずれも腰部にかなりの負担のかかる作業間での作業の展開、推移であって、これらを全体として評価すれば、原告の従事していた業務は右イに挙げられた業務と同程度の腰部負荷を伴う業務であり、結局、労基法規則三五条、別表第一の二第三号2の腰部に過度の負担のかかる業務であることが認められる。
 原告の従事業務と原告の腰痛との因果関係について
 (一) 右の認定事実からすると、給食調理作業中に原告の腰部に加えられた負担の程度は、日常生活における一般的な諸動作による負担の域をかなり超えるものであり、原告はこの業務に六年間もの間継続的に従事することによって、通常の日常生活を営む限りでは生じ得ないような強度の腰部の筋、筋膜、靭帯等の軟部組織の疲労をもたらされたものと認めるに難くない。しかも、原告は、公社入社前は腰痛症に悩まされたことは全くなく、給食調理業務に従事するようになってから約五年後に初めて腰痛を覚え、さらに、約六年九か月後に業務就労が不能となる腰痛症を患うことになったものであり、昭和五五年三月七日から自宅で約二週間の療養をとると一時的に腰痛が治り、給食調理業務に就くと再び腰痛を来すようになったものである。
 (二) また、(証拠略)によれば、昭和四八年に労働省労働基準局長から都道府県労働基準局長宛に発せられた「学校給食事業における労働災害の防止について」と題する通達(昭和四八年三月六日付基発第一〇七号)別添の「学校給食事業における安全衛生管理要綱」の3の(9)には「食器、食品材料等を運搬する作業は、適切な自動運搬装置の導入、レイアウトの改善等により、腰痛症等を防止するためできうる限り合理化すること。」との指導が挙げられ、同4では健康診断における検査に重量物の取扱い運搬に伴う腰痛症に関する所定の検査を含めるよう指導されていること、さらに、昭和五六年に労働省により実施された公立学校における学校給食事業の安全衛生に係る実態調査に際して、腰痛症に関する健康診断検査やこれに対する対策の実施状況の調査がその一項目として行われていることが認められ、学校給食事業における腰痛症の発生が問題意識として存在していたことが推認される。さらに、(証拠略)によれば、学校給食調理職場は女性職場の中で腰痛症の多発職場であり、特に調理給食数の多いいわゆるセンター方式の調理職場の方が腰痛症の発生率が高いとする文献も存在することが認められる。
 そして、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる(証拠・人証略)によれば、実際、昭和五四、五年当時、原告と同一もしくは類似の給食調理業務の職場、職種において原告と同様の腰痛が多発していたことが認められる。〔中略〕
 七五〇号通達〔解説〕2(1)は、腰部に過度の負担のかかる業務に比較的短期間従事する労働者に発症したもので、レントゲン写真上病的変性が認められず、他覚的所見に乏しい筋、筋膜、靭帯等の疲労現象から起こる腰痛も、業務上の事由による腰痛と認定される場合があることを前提としており、また、原告の腰痛は、他覚的所見に乏しいとはいえ、A医師らにより、触診その他による圧痛、可動域制限等の所見も踏まえて腰痛症であるという判断がされている(〈証拠略〉、同医師の証言により認める。)のであるから、B医師の意見をもって、原告の腰痛が業務上の事由によるものであるとする前記判断を左右するものと考えられない。
 以上によれば、原告の腰痛は労基法規則三五条、別表第一の二第三号2の「腰部に過度の負担のかかる業務による腰痛」に該当し、労災保険法一二条の八第一項一号、二項による療養補償給付の対象となるものであるから、原告の腰痛を業務上の疾病によるものとは認められないことを前提としてした被告の本件処分は違法であり、取消しを免れない。