ID番号 | : | 05829 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日立物流事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 運送会社の従業員が引越作業から会社に戻った際に、仕事先から財布がなくなった旨連絡があったとして上司から所持品検査を受け、右所持品検査は違法なものであり、それにより、名誉、信用等を傷つけられたとして会社に対して慰謝料を請求した事例。 |
参照法条 | : | 民法709条 民法710条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 所持品検査 |
裁判年月日 | : | 1991年11月22日 |
裁判所名 | : | 浦和地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成1年 (ワ) 658 |
裁判結果 | : | 一部認容,一部棄却(確定) |
出典 | : | 時報1413号97頁/タイムズ794号121頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 小宮文人・法学セミナー37巻11号133頁1992年11月 |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-所持品検査〕 使用者がその企業の従業員に対して行う所持品検査は、従業員の基本的人権に密接に係わる事柄であるため、その実施に当たっては常に被検査者の名誉、信用等の人権侵害のおそれを伴うものであるから、たとえ、それが企業にとって必要かつ効果的な措置であるとしても、当然に適法視されるものではない。右所持品検査が適法といえるためには、少なくともこれを許容する就業規則その他明示の根拠に基づいて行われることを要するほか、さらに、これを必要とする合理的理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で、しかも制度として、職場従業員に対して画一的に実施されるものでなければならない。 これを本件についてみるに、《証拠略》によれば、被告においては、本件のような引っ越し作業員の所持品検査について、これを許容する就業規則その他明示の根拠規定は存在しないことが認められる。したがって、Aの行った本件身体検査を含む本件所持品検査は、この点で既に違法であると言わざるをえない。 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕 原告が、身体検査を受けない自由や所持品携帯の自由が、就業規則や労働協約によって保障されたものであるかどうかは別として、本件身体検査を含む本件所持品検査が、原告の承諾を受けたものとは認められないことは前記のとおりであるから、これにより原告が有する身体的自由に対する侵害がなされたということはできる。〔中略〕 (一) 被告の主張(二)(1)の事実のうち、A及びBが、原告に対し、Aの行動が行きすぎで、適切を欠いたことは認め、「お詫び申し上げます。」と記載した書面を提出したことは当事者間に争いがない。 (二) しかし、右の事実により、本件所持品検査の違法性が完全に消滅し、原告の受けた損害が完全に回復されたとまでいうことはできない。 (三) 被告は、原告が、昭和六三年一二月下旬、Bが謝罪した際、「所長には、詫び状とともにすまない、と謝ってもらったので何度も謝ってもらわなくて結構だ。」「わざわざ本部から出向いてもらって恐縮だ。この件は時間が解決してくれるだろう。」と述べ、また、原告は、平成元年一月二〇日Bと面談した際、「慰謝料のことは考えていない。」と述べたので、本件所持品検査の違法性は消滅したものであると主張するが、右事実を認めるに足りる証拠はない。 そして、原告が従来社内で受けていた評価、本件身体検査を含む本件所持品検査の目的・態様、その後のAらの対応等、諸般の事情を考慮すると、原告が右5の名誉毀損等により被った精神的苦痛を慰謝するためには金三〇万円が相当である。 |