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ID番号 05831
事件名 従業員地位確認等請求事件/同附帯上告事件
いわゆる事件名 日立製作所武蔵工場事件
争点
事案概要  トランジスターの特性管理の業務に従事していた労働者が、その算出した選別後の歩留まり率より低い結果が出たため、上司に原因の追求と対策のために残業を命じられたのに対して、それを拒否して懲戒処分(出勤停止処分)を受けたが、労働者には残業命令に従う義務はないとの考え方を変えず、始末書の提出命令を拒否して、「悔悟の見込みがない」として懲戒解雇され、その効力を争った事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法36条
体系項目 労働時間(民事) / 時間外・休日労働 / 時間外・休日労働の義務
裁判年月日 1991年11月28日
裁判所名 最高一小
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (オ) 840 
裁判結果 棄却
出典 民集45巻8号1270頁/時報1404号35頁/タイムズ774号73頁/労経速報1444号3頁/労働判例594号7頁/裁判所時報1064号1頁/金融商事905号33頁
審級関係 控訴審/01239/東京高/昭61. 3.27/昭和53年(ネ)1384号
評釈論文 外尾健一・労働判例736号2頁1998年6月15日/宮本光雄・平成3年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1002〕207~209頁1992年6月/山川隆一・月刊法学教室140号98~102頁1992年5月/山本吉人・判例評論400〔判例時報1415〕198~203頁1992年6月1日/小宮文人・法学セミナー37巻5号149頁1992年5月/盛誠吾・労働判例百選<第6版>〔別冊ジュリスト134〕98~99頁1995年5月/増井和男・ジュリスト994号87~90頁1992年2月1日/増井和男・法曹時報44巻1
判決理由 〔労働時間-時間外・休日労働-時間外・休日労働の義務〕
 労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時間を延長して労働させることにつき、使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる三六協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該三六協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容をなすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するを相当とする。〔中略〕
 本件の場合、右にみたように、被上告人の武蔵工場における時間外労働の具体的な内容は本件三六協定によって定められているが、本件三六協定は、被上告人(武蔵工場)が上告人ら労働者に時間外労働を命ずるについて、その時間を限定し、かつ、前記【1】ないし【7】所定の事由を必要としているのであるから、結局、本件就業規則の規定は合理的なものというべきである。なお、右の事由のうち【5】ないし【7】所定の事由は、いささか概括的、網羅的であることは否定できないが、企業が需給関係に即応した生産計画を適正かつ円滑に実施する必要性は同法三六条の予定するところと解される上、原審の認定した被上告人(武蔵工場)の事業の内容、上告人ら労働者の担当する業務、具体的な作業の手順ないし経過等にかんがみると、右の【5】ないし【7】所定の事由が相当性を欠くということはできない。
 そうすると、被上告人は、昭和四二年九月六日当時、本件三六協定所定の事由が存在する場合には上告人に時間外労働をするよう命ずることができたというべきところ、A主任が発した右の残業命令は本件三六協定の【5】ないし【7】所定の事由に該当するから、これによって、上告人は、前記の時間外労働をする義務を負うに至ったといわざるを得ない。
 二 A主任が右の残業命令を発したのは上告人のした手抜作業の結果を追完・補正するためであったこと等原審の確定した一切の事実関係を併せ考えると、右の残業命令に従わなかった上告人に対し被上告人のした懲戒解雇が権利の濫用に該当するということもできない。
 三 以上と同旨の見解に立って、被上告人のした懲戒解雇は有効であるから、上告人の雇用契約上の地位の確認請求並びに昭和四二年一一月以降の未払賃金及びこれに対する遅延損害金の支払請求をいずれも棄却すべきものとした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨はすべて採用することができない。