全 情 報

ID番号 05836
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 日本プレジデントクラブ事件
争点
事案概要  取締役兼従業員であった者が、退職したのち「業務上の理由による傷病で退職するとき」にあたるとして、右事由に基づく退職金を請求した事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
賃金(民事) / 賃金の範囲
裁判年月日 1991年12月17日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成2年 (ワ) 11133 
裁判結果 一部認容,一部棄却
出典 労働判例602号22頁/労経速報1461号23頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金の範囲〕
 被告代表者は、原告に対する賃金支給額を改定するに際して、一括して五二万五〇〇〇円とするとしてしまったものであり、賃金規定に基づく右内訳を示さず、かつ、本訴においても、これを取締役報酬と合算したものと強弁しているのであるから、右五二万五〇〇〇円は全額が退職金規定にいうところの基本給であったと認めるほかはない。
 また、被告は、原告が取締役であった以上無報酬ではあり得ないかのように、原告が取締役であったことについて縷々主張するが、そもそも、従業員が取締役を兼務している場合に取締役報酬を受けていないことはあり得ないとはいえない。そればかりか、本件においては、原告は、取締役といっても名ばかりで、実質的には単なる従業員であったと解される。すなわち、なるほど、被告会社では定時株主総会議事録が作成され、原告は退職に際して取締役辞任届を提出している。しかし、〔中略〕株主総会議事録への記名押印は、被告代表者において管理している各取締役名義の印鑑をその出席の有無にかかわらず、一括して議事録に押捺して作成されたものであっていわば形式を整えただけのものであり、また、原告は、もともと、取締役という名称を付されているものの、被告会社の経営に関与して被告代表者の業務執行に意見を述べるような立場になく、被告代表者のいわゆるワンマン会社の単なる従業員としての活動しかしていなかったものであることが認められ、この認定に反するかのような被告代表者の供述の一部は前掲証拠に照らして採用し得ない。
 したがって、原告の退職当時の賃金額は、一か月五二万五〇〇〇円と認められ、それを一か月二六万八五〇〇円と解すべき根拠はない。
〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 被告就業規則退職金規定上の「業務上の理由による傷病で退職するとき」とは、いわゆる労働災害に該当するような場合を想定して定められた規定であることが認められ、当該条項による退職金請求権が発生するためには、当該傷病と業務との間に医学的に相当な因果関係が認められなければならないと解される。
 これを原告についてみるに、なるほど、(証拠略)原告本人によると、原告が退職を決意した原因が、平成元年春先から夏にかけてに(ママ)発症した胃・十二指腸潰瘍が辛かったためであること、原告が日常も運動を欠かさず、飲酒の習慣もなく、元来健康であったこと、債権管理等の業務が原告の本来の仕事で、これについては夜遅く、あるいは朝早く集金先に赴くなどもしており、食事の時刻が不規則になったり、睡眠が不十分だったりしたこともあること、平成元年当初から社長が一時二人になるとか、元副社長に対する訴訟提起や社員の横領問題が生じたり、社員の退社が続くなどの事情があって、原告の仕事が増え、通常業務以外の仕事も被告代表者の命に従って行っており、原告がその負担をかなり過重に感じていたこと、現にかなり残業もしていたこと、同年六月ころ吐血して診療担当医師から仕事からくるストレスを避けるために自宅療養して安静にしている必要があると言われていたこと、しかし、特別地方消費税の計算と申告の業務、明け渡し対象となった倉庫の整理その他の仕事なども加わって、中々休養できるような状態でなかったこと、同年九月に被告会社を退職して後入院の上加療を受け、その後病状がほぼ回復するに至っていることが認められる。しかし、これら業務と原告の胃・十二指腸潰瘍との間の医学的因果関係を断定するに足りる証拠はなく、右認定の事情のみをもって、「業務上の理由による傷病」と断ずることはできない。
 また、(証拠略)、原告本人によると、被告代表者が原告の病気の話を聞いて、一旦は、病気と仕事との因果関係を認めるような口吻で「会社の規定のほかにも幾らか考えて悪いようにはしない。」旨述べていたことが窺われるが、右発言のみで、原告の退職金が「業務上の理由による傷病」による退職に該当する取り扱いを確定的に被告代表者が約したものとまではみることができない。
 したがって、原告の退職は、退職金規定上「自己の都合により退職するとき」に該当するものというべきである。
 そうすると、原告に支給されるべき退職金額は、前記賃金額に勤務年数を乗じた額の半額となる。