全 情 報

ID番号 05839
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 浅野工業事件
争点
事案概要  早期退職制を採用している企業を退職した労働者が、右制度に該当するとして割増の退職金を請求した事例。
参照法条 労働基準法11条
労働基準法3章
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 1991年12月24日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成2年 (ワ) 8680 
平成2年 (ワ) 10300 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働民例集42巻6号964頁/時報1411号125頁/タイムズ794号118頁/労働判例602号18頁/労経速報1459号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 右認定事実によれば、本件早期退職制度は、被告会社と従業員との間で雇用契約を解約して退職する旨の合意が成立することを要件としており、この合意が成立せずにいずれか一方から雇用契約の解約告知をする場合には適用されないとの趣旨で制定されたものといわざるを得ない。
 この点につき原告らは、合意解約か解約告知かは退職に当たって通常その区別を意識しないし、被告会社もこれを峻別していなかったのであるから、合意解約に限って適用されるとするべきではないと主張するが、右認定のとおり、被告会社では早期退職をしてほしくない従業員を選別して慰留する趣旨で、会社が制度の適用を認めることを要件として定めていたのであって、これを法律的に意味付ければ、合意解約に限ることを制度適用の要件としたと見ざるを得ないのである。
 原告らはまた、右の会社の承認という要件は余りにも労働者の利益を無視しており、公序良俗に反するか、そうでないとしても、特別の理由のない限り承認の義務があると主張する。確かに承認を要件とすれば、会社が承認しない場合労働者は雇用関係を継続するか、解約告知により優遇措置の適用を受けずに退職するかの選択をするしかないことになろうが、それは個別の退職勧奨に応じて退職すれば割増退職金の支給を受けられる場合に、会社から退職の勧奨がないため割増金を得ることができないのと同様、単に会社と労働者の希望が合致しないために退職しても特別の利益を得ることができないだけで、雇用契約の継続の観点からは労働者になんらの不利益を強いるものではない。加えて、会社の承認を要件とした趣旨は前記のとおりであって、それ自体不合理な目的であるとはいえず、前認定のとおり一般に採用されているところでもある。これらの点に鑑みれば、会社の承認という要件は公序良俗に反するものではなく、また、一般的な制度として採用する以上、会社に承認の義務があるというものでもないというべきである。