全 情 報

ID番号 05875
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 セキレイ事件
争点
事案概要  会社の経営につき非難中傷をしたこと等を理由とする懲戒解雇につき、懲戒解雇権が発生しているとはいえず、懲戒解雇の意思表示は無効であり、通常解雇の意思表示とみるにしても、解雇予告手当の支払いがない以上解雇の効力は生ぜず、労働者の求める解雇予告手当と附加金の支払いが命ぜられた事例。
参照法条 労働基準法19条
労働基準法89条1項9号
労働基準法114条
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
解雇(民事) / 解雇予告手当 / 解雇予告手当請求権
雑則(民事) / 附加金
裁判年月日 1992年1月21日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成2年 (ワ) 11779 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例605号91頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕
〔解雇-解雇予告手当-解雇予告手当請求権〕
〔雑則-附加金〕
 原告本人尋問の結果によれば、原告は、平成二年七月二一日に、会社の上司から「おまえは首だ」といわれたことが認められ、(証拠略)によれば、原告は右同日被告主張趣旨に添う内容の書面を会社に提出していることが認められる。そして右事実からすれば、右上司による意思表示は、被告主張の事実を理由とする懲戒解雇の意思表示であったことが認められる。
 しかしながら、(証拠略)及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、(証拠略)の書面を作成する直前に、被告会社の専務や部長等数人から殴る蹴るの暴行を受け、頚部挫傷、左前腕・左上腕・右下腿打撲、右第五指打撲による全治一〇日の傷害を負わせられ(後に、左眼も打撲を受けていることが判明し、さらに平成二年八月二九日からは頚椎捻挫、腰部挫傷、右小指挫傷で通院治療を受けている。)たうえ、右趣旨の内容の書面を書かなければ帰さないと言われたためにやむを得ず意に反して作成したものであることが認められ、右事実からすると、右書面の内容には信用性がなく、他に被告主張の懲戒事由の存在を立証する証拠はない。
 そうであるとすれば、被告に懲戒解雇権が発生しているとは認められず、したがって、被告の懲戒解雇の意思表示は無効であり、これを通常解雇の意思表示と見るにしても、解雇予告手当の支払がない以上解雇の効力は生じないことになるが、被告において雇用関係を即時に終了させる旨の意思を有していたことは明らかであるとともに、原告においても雇用関係の即時終了の効力が生じること自体は容認し、解雇予告手当の支払を求めているものであるから、右意思表示によって原告と被告との間の雇用関係は即時に終了し、被告は原告に対し解雇予告手当を支払うべき義務が生じるものと解するのが相当である。
 そして、前述のように、原告の賃金は月額金四〇万円であったというのであるから、労働基準法二〇条一項により、被告は原告に対し金四〇万円の解雇予告手当を支払うべき義務があるというべきである。
 また、原告は、予告手当と同額の付加金の支払を求めているところ、当裁判所もこれを相当と認め、労働基準法一一四条により、被告に対し右解雇予告手当と同額の金四〇万円の付加金の支払を命ずる。