全 情 報

ID番号 05895
事件名 未払賃金請求事件
いわゆる事件名 明野住宅歩合給請求事件
争点
事案概要  不動産関係の会社において契約の仲介等の職務に従事して歩合給を得ていた元従業員による歩合給支払請求につき、本件においては、労務提供の都度、使用者が歩合給発生の基礎となる収益を得なかったことを解除条件として、収益が確定するまでに費やされた全労務に占める割合に応じて既に発生しているとし、受け取るべき歩合給の七〇パーセントの支払いが命ぜられた事例。
参照法条 労働基準法24条
民法624条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 賃金請求権の発生時期・根拠
賃金(民事) / 出来高払いの保障給・歩合給
裁判年月日 1992年2月26日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成2年 (ワ) 5771 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 労働民例集43巻1号465頁
審級関係
評釈論文 岡田健・平成4年度主要民事判例解説〔判例タイムズ821〕324~325頁1993年9月
判決理由 〔賃金-賃金請求権の発生-賃金請求権の発生時期〕
〔賃金-出来高払いの保障給・歩合給〕
 (2) ところで、被告は、その主張1において、請負型歩合給の対価たる労務が(1)で説示したものであることを理由に、本件各契約に基づく歩合給は、原告が右労務を完遂し、その結果として被告が現実に収益を得るまで発生しないという。
 しかし、歩合給は、請負契約に基づく報酬ではなく、あくまで雇用契約に基づき労務の対価として発生する賃金である(原、被告間の契約が雇用契約であることは、被告代表者本人により認められる原告の勤務実態、担当業務の決定方法等により認定できる。)こと、公平の観点から考えても、使用者は、ある従業員が労務提供の途中で退社し、以後の労務提供が不可能となった後においても、他の従業員をしてこれを続行させることにより退社した従業員の残した労務の提供の成果を利用し得ると考えられ、殊に本件では、原告は、被告の収益のもととなる請負契約の締結自体は自らの手で完成していたのであり(前記第二の一4(1)及び(2))、被告は、原告が退社するまでに提供した労務を現実の成果として利用できたのに反し、原告は平成元年六月分からは歩合給のみで外に固定給等は支給されないことになっていた(乙五の一ないし四、原告本人)から、退社時には歩合給が全く発生していないとの解釈を取ると、右提供済みの労務に対する対価を全く得られない結果となることからすると、歩合給は、当事者間に格別の合意がない限り、原則として、顧客を発見することから始まり請負代金を受領することにより完了する従業員の労務提供の都度、使用者が歩合給の発生の基礎となる収益を得なかったことを解除条件として、発生しているものと解するのが相当である。したがって、被告が現実の収益を得たことが認められる(前記第二の一4(1)及び(2))本件においては、原告の歩合給請求権は、原告が退社する時点で、原告が退社までに提供した労務が、被告の収益が確定(請負代金の受領)するまでに費やされた全労務中に占める割合に応じて既に発生していたものというべきである。〔中略〕
 3 そこで、割合につき考える。
 乙六、七、被告代表者本人によると、原告が退社して以後、その上司である訴外Aが行った業務としては、設計事務所と施工図面等の打合せ、注文主と施工業者(明野工務店~被告代表者本人によると、同社は事実上被告の建築部門を担当する会社である。)との打合せの仲介、工事に伴う近隣対等、登記関係の処理、引渡への立会、注文主が建築資金を確保するための手助け等であったことが認められる。
 しかし、右業務は、いずれも、本件各契約の成立に伴う付随的業務に過ぎず、しかも、このうちには、当初から原告の労務のみで賄われることが予定されていないものも含まれている(被告代表者本人によると、訴外Aは二級建築士の資格を有し、原告の業務を指導、補助する役割を担当していたことが認められる。)こと等の事情を判断すると、原告が本訴で請求できる歩合給の割合は七〇パーセントであるものと認めるのが相当である。