ID番号 | : | 05897 |
事件名 | : | 地位確認請求事件 |
いわゆる事件名 | : | エア・インディア事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 国際線航空会社で機上勤務をしていた女子社員に対する地上職勤務への配転命令につき、機上勤務(エアーホステス)という黙示の職種限定があったが、本件命令時にはすでに雇用契約の内容になっておらず、配転命令権の濫用にもあたらないとされた事例。 雇用契約は、労働者がその労働力の使用を包括的に使用者に委ねるという内容をもつものであるから、使用者は、右の労働力に対する包括的処分権に基づいて、労働者に対し、職種および勤務場所を特定して配転を命じうるとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界 |
裁判年月日 | : | 1992年2月27日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成2年 (ワ) 5101 |
裁判結果 | : | 棄却(控訴) |
出典 | : | 時報1419号116頁/タイムズ787号179頁/労働判例608号15頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 安枝英のぶ・判例評論409〔判例時報1442〕218~225頁1993年3月1日/奥田香子・民商法雑誌109巻1号143~151頁1993年10月/石井保雄・季刊労働法166号194~197頁1993年3月 |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕 1 雇用契約は、労働者がその労働力の使用を包括的に使用者に委ねるという内容を持つものであるから、使用者は、右の労働力に対する包括的処分権に基づいて、労働者に対し、職種及び勤務場所を特定して配転を命じうるのが原則であるが、労使間において、特に職種又は勤務場所を限定する明示又は黙示の合意が成立し、これが雇用契約の内容になっている場合には、その範囲を超えて配転を行うには、労働者の同意が必要であると解するのが相当である。〔中略〕 3 次に、本件採用時における職種限定の合意が、その後失効して、本件配転命令時には、既に本件雇用契約の内容になっていなかったかどうかについて、検討する。 (一) 前記2のとおり、本件採用時、原告と被告との間では、原告の職務をエア・ホステスに限定する旨の職種限定の合意が成立し、これが本件雇用契約の内容となっていたものと認められる。しかし、そこでもみたように、職種限定の合意が成立したといっても、エア・ホステスの業務内容の特殊性や専門性或いは特別の公的資格によって基礎づけられたものではないし、また、本件雇用契約上、原告はエア・ホステスのみの業務に従事するとか又はエア・ホステス以外の業務に従事することを要しない旨を明記した条項が定められていたわけでもないから、右職種限定の合意は、エア・ホステスについて三〇歳という通常よりも相当に低い年齢を定年年齢とする職種別定年制を採用したこととの関連において成立したもので(職種別定年制の採用が職種限定の合意を基礎づける証左の一つであることは、原告も認めている。)、しかも、黙示的な合意にとどまると解するのが相当である。このことは、本件採用時において、エア・ホステスの定年年齢いかんにかかわらず、すなわち、それが一般従業員の定年年齢と同様であると仮定した場合にも、なお原告の職種をエア・ホステスに限定する旨の職種限定の合意が成立したであろうことを認めるべき事情は存在しないこと、前述したエア・ホステスの業務内容の特殊性や専門性或いは公的資格の有無、程度及び本件雇用契約の内容を勘案すれば、原告がエア・ホステスの採用募集に応募してその試験に合格し、本件採用通知にエア・ホステスとして採用することが明記されていたというだけでは、明示的な合意として職種限定の合意が成立したものと解することはできないことによっても、裏づけられるところである。 (二) したがって、本件雇用契約の締結時に約定されたエア・ホステスについての三〇歳の定年年齢が、その後、三五歳、四五歳、五八歳と順次延長(ただし、三六歳から四五歳までは一年毎の勤務延長)され、職種別定年制を定めた部分が変更された場合には、これとの関連において本件の職種限定の合意にも影響がありうることは、両者が同一の雇用契約の内容となっていることの当然の結果として、容易に肯認されるところである。エア・ホステスの定年年齢が三〇歳から五八歳まで順次延長され、これに伴って、原告の勤務可能な期間が本件雇用契約当初の八年から現在の三六年へと大幅に伸張したにもかかわらず、本件の職種限定の合意のみが何らの変更もなく効力を維持するものと解することは、もともと、本件の職種限定の合意は、業務内容の特殊性、専門性或いは特別の公的資格のいずれをも基礎とするものでないこと、雇用契約においては、一般的に、継続的法律関係として契約締結後の事情変更による影響を避けられないものであることを指摘するまでもなく、妥当ではないからである。 そして、本件採用時において、エア・ホステスの定年年齢が一般従業員のそれと同様であると仮定した場合に、原告の職種をエア・ホステスに限定する旨の職種限定の合意が成立したであろうことを認めるべき事情のないことは、前記のとおりであるが、更に、この事情をも踏まえて、エア・ホステスの定年年齢を三〇歳とする職種別定年制のもとで成立した本件の職種限定の合意をその定年年齢が五八歳まで伸張した現在の法律関係のもとで事後的に評価した場合においても、それは、せいぜい当初の定年年齢である三〇歳か又はこれに近接する当分の期間について原告の職務をエア・ホステスに限定する趣旨のものとして効力を認めうるのみで、本件雇用契約の締結時から五八歳の定年年齢に達するまでの全期間にわたって効力を有する趣旨のものと解するのは相当でないというべきである。 したがって、原告の年齢が四五歳を超え、かつ、本件雇用契約の締結時から二三年を経過した後にされた本件配転命令当時には、雇用契約締結当初に成立した職種限定の黙示的な合意は、既にその効力を失い、本件雇用契約の内容にはなっていなかったと解するのが相当である。 |