全 情 報

ID番号 05904
事件名 地位保全仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 井上達明建築事務所事件
争点
事案概要  設計補助および一般事務として採用された者に対する能力欠如、信頼関係破壊を理由とする解雇が無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 職務能力・技量
解雇(民事) / 解雇事由 / 人格的信頼関係
裁判年月日 1992年3月23日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成4年 (ヨ) 98 
裁判結果 一部認容
出典 労経速報1461号11頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-職務能力・技量〕
〔解雇-解雇事由-人格的信頼関係〕
 一 能力欠如の点について
 経験、学識の豊富なA社長(疎明資料及び審尋の全趣旨により一応認めることができる)の目から見れば、債権者の仕事振りが覚束ないという面は否定できないかもしれないが、一方、疎明資料によれば、債権者の学歴及び職歴から見れば、必ずしも始めからA社長の要求水準を満たすことを期待するのは無理があると一応認められるとともに、債務者が指摘する具体的な問題となる事実は、A社長による仕事の指示方法等債権者の責めに帰すべからざる事情に起因することがあり得ることをうかがわせるので、債権者の能力欠如に関する事実は、前記認定の限度にとどまらざるを得ない。
 二 信頼関係破壊の言動について
 確かに、前記認定のとおり債務者は建築の設計・監理という専門的な業務を扱う個人企業であることから、債権者は人間関係特に経営者A社長との関係には配慮すべきであるということはできる。また、A社長にとっては、ボーナスについて一々説明を求められるということを面白くないと思うことは無理からぬことであるかもしれない。しかしながら、債権者のとった前記各行動は、社会通念から見てこれを問題視されるべきものではなく、ボーナスの査定について説明を求めること自体も、何ら非難されるべきものではない(もちろん、説明を求めるについて、どのような方法をとるかによって場合により問題になり得るが、債権者による求釈明が著しく不穏当な発言・方法によったものであるということを認めるに足りる疎明資料はない)。したがって、債務者側の前記事情を十分考慮したとしても、債務者は債権者の前記認定の各行動を非難したり、ひいては解雇理由とすることは許されないと言わざるを得ない。
 なお、A社長が机の引き出しに保管している経理帳簿を債権者が密かに盗み見しているという事実は、債務者の推測の域を出ず、これを認めるに足りる疎明資料はない。