全 情 報

ID番号 05906
事件名 療養補償給付および休業補償給付不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 宇都宮労働基準監督署長(塗装工)事件
争点
事案概要  約三一年間にわたって塗装業務に従事していた労働者の肝機能障害につき、業務起因性が認められないとされた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
裁判年月日 1992年3月25日
裁判所名 宇都宮地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (行ウ) 6 
裁判結果 棄却
出典 労働判例610号39頁
審級関係 控訴審/06022/東京高/平 4. 9.21/平成4年(行コ)64号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 2 本件における業務起因性
 (一) 前記一1認定の事実によれば、正確な数値は不明であるが、塗装作業従事期間、作業の環境及び実態からは、Aが相当程度にトルエン等の有機溶剤の曝露を受けたことが推認されるが、他方、医師や研究者の間では、Aが塗装作業において曝露を受けた化学物質からは、強度の肝障害は起こらないと理解されており(前記一2)、Aの肝機能障害の病状進展経過(前記一3)と照らし合わせると、トルエン等が肝臓に影響を及ぼすことが指摘されているとはいっても、Aの肝機能障害が塗装作業において取り扱った有機溶剤に起因すると推断するのは早計と言わざるを得ない。しかも、肝機能検査結果の数値に有機溶剤による肝機能障害の特徴と異なる点が見られること(前記一4)や、Aの肝硬変は大結節性であるのに対し化学物質による肝硬変では大結節性のものが稀であること(前記一5)は、前者については個人差があること、後者については、Aの肝硬変は、全体的にみて大結節性であり、その中に小結節もあること〔人証略〕を考慮すれば、Aの肝機能障害が有機溶剤によるものでないことを証明するものとまではいえないものの、少なくともAの肝機能障害が有機溶剤以外に起因するのではないかと強く疑わせる事実であるということができる。
 (二) 更に、医師の所見を見ると、B医師はAの肝機能障害が塗装業務で使用した有機溶剤に起因するとの所見を述べているが、D医師、C医師は、結論において業務起因性について否定的見解を述べている。
 B医師の所見では、Aの肝機能障害発症の原因となった有機溶剤が何であるかが明らかでなく、塗料の成分たる物質の具体的な毒性について検討を経ていない点において、有機溶剤と肝機能障害との関係を肯定する証拠として大きな価値を認めることはできないし、Aに輸血歴のないことからウイルス性肝炎ではないと判断している点についても、ウイルス感染については、輸血によるもののほか、胎児感染、母子感染、体液感染、予防接種時の注射針感染等他の感染原因の可能性について慎重に検討したうえで判断することが必要であると考えられ、Aに輸血歴がないことからウイルス性肝炎でないとの判断に至ったことには首肯しがたいものがある。以上の理由により、B医師の所見をもって、D医師及びC医師の所見を排斥し、本件の業務起因性を肯定することはできないと考える。