ID番号 | : | 05937 |
事件名 | : | 損害賠償請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 日鉄鉱業松尾採石所じん肺訴訟控訴事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 坑内において削岩作業に従事していた労働者のじん肺罹患につき、雇用契約の当事者たる使用者と右作業に請負に出していた会社の双方に安全配慮義務違反があるとして、損害賠償の支払いを命じた原判決が維持された事例。 |
参照法条 | : | 民法415条 民法623条 じん肺法1条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 |
裁判年月日 | : | 1992年7月17日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成2年 (ネ) 1113 平成2年 (ネ) 1299 |
裁判結果 | : | 変更(上告) |
出典 | : | 時報1429号22頁/タイムズ8094号71頁/労働判例619号63頁 |
審級関係 | : | 一審/05258/東京地/平 2. 3.27/昭和57年(ワ)4889号 |
評釈論文 | : | 岩田好二・平成5年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊852〕58~59頁1994年9月 |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕 第一審被告らの安全配慮義務違反 労働契約の下においては、労働者は、使用者の供給する労務場所・設備・機械・器具その他の環境で、使用者の指揮命令の下労務に服するものであるから、使用者はそれらの諸環境につき労働者が労務に服する過程で生命及び健康を害しないよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負うものである。本件において、第一審被告らは、前認定のような労務環境・労働契約の内容に従い、第一審原告らがじん肺に罹患しないよう、可能な限り粉じんの発生を防止し、粉じんが発生した場合にはその除去、飛散をはかり、有害粉じんの人体への吸入を抑止するため適切な労働時間の設定や防じんマスクの支給、じん肺安全教育などを行い、健康診断によりじん肺有所見者が発見されたときには、粉じんに暴露される作業時間の短縮化や職種転換などによりじん肺の重症化への進行を阻止するなどの措置を講ずる義務を負担していたものである。 もっとも、既にみたように、有害粉じんそのものは、労働現場においてその殆どが不可視的な微粒物体であり、かつ、計測も容易ではないことにより、使用者側において万全の防御対策を講ずることにかなりの困難を伴うことは理解できないわけではないが、しかし、じん肺の原因が人体に有害な粉じんを長時間吸入することによるものであるとの病理機序は既に相当以前から明らかにされているところであり、じん肺はいったん罹患するや不可逆的な病であって、肺機能障害などにより生命または身体という重要な法益を侵すものであり、そして、じん肺罹患防止のための作業環境、吸入防止用具、予防教育、健康診断などの科学的、技術的、医学的水準も絶えず向上しているものであるから、第一審被告らとしては、こうした科学技術の進歩を前提とした上で、上記のような諸措置を総合的かつ適切に履行し、もってじん肺防止の万全の注意を払うべき義務の履行が求められていたというべきである。このように、使用者側としては、当該労働者らとの関係では、如何に困難が伴うとはいえ、できるかぎりの有効な諸措置を講ずるのが信義則上要請されているといえるのである。 そうだとすれば、こうした諸措置の全部または一部の履行を怠り、その結果粉じん作業に従事した労働者がじん肺に罹患したと認められる場合には、使用者は、右義務の不履行につき民法四一五条所定の「責ニ帰スヘキ事由」のないことを立証しない限り、労働者がじん肺に罹患したことにより被った損害につき賠償の責任を免れないものと解するのが相当である。 |