全 情 報

ID番号 05945
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 エス・バイ・エル事件
争点
事案概要  上司に対する勤務時間中の懲戒解雇につき、懲戒権濫用にはあたらないとされた事例。
参照法条 労働基準法89条1項9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
裁判年月日 1992年9月18日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成2年 (ワ) 8735 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1475号13頁/労働判例617号44頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
 1記載の原告の暴行は、ネクタイを力いっぱい引っ張るというもので、暴行の態様自体が悪質であるほか、その動機においても特段酌むべきところはないというべきである。すなわち、原告は、A部長らが原告のプライヴァシーにわたる事項に介入したと主張し、これに抗議しようとした原告が結果的に本件暴行に及んだのであるから動機において酌むべき点があるというのであるが、原告は、Bに対し勤務時間中に交際を求める手紙を渡すなどの行為をしていたのであるから、右のような原告の行為がBの職務に支障をきたすおそれがあることは明らかである。従って、A部長らが原告に対しBに交際を求めるのをやめるよう説得する行為は職場秩序を維持するためになされたものというべきであって、原告のプライヴァシーを違法に侵害する行為であるということはできない。もっとも、原告がA部長らの右行為に対し不快感を抱いたであろうことは容易に想像できるが、このことから1記載の各言動に及ぶとすれば、あまりに短絡的かつ非常識であるといわねばならない。
 さらに、3記載の各事実によれば、原告の本件暴行は決して偶発的、一過性のものではなく、原告の独善的かつ極端に激しやすい性格に根ざしたものであるといわなければならない。そして、右各事実によれば、原告は本件の前にも何回かその協調性のなさや独善的性格について注意を受けていたにもかかわらず、悪いのは自分ではなくC支店長ら上司であるなどとして全く反省せず、かえって、同支店長らに対する憎悪を募らせていたことが認められるのであるから、被告が原告の性格が改善不能であると考えるのはもっともであり、また、原告の本件暴行が原告のこのような性格に根ざしている以上、今後とも同様の事態が発生することは十分予想されるのであるから、懲戒処分のうち、解雇という手段を選択したことはやむを得ないというべきであって、被告が前記のとおりの調査等をしたうえ本件処分に及んだことをも考慮すると、本件処分が懲戒権の濫用に該当するということはできない。
 また、原告は、C支店長が被告女子社員に対し「セクシャルハラスメント」をしていたほか、D次長も原告に対して暴行を働いておりこれが原告の本件暴行を誘発したなどとして、右両名を懲戒せず、原告のみについて懲戒解雇処分をするのは、処分の均衡を失するものであると主張するが、仮に原告の主張する事実が存在していたとしても、既に認定した原告の本件行為の動機、態様及び本件行為に至るまでの原告の行状に照らすと、本件処分を無効とするほどの処分の不均衡があるとはいえない。