全 情 報

ID番号 06022
事件名 療養補償給付および休業補償給付不支給処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 宇都宮労基署長(塗装工)事件
争点
事案概要  長年にわたって塗装業務に従事してきた労働者が罹患した肝機能障害につき、業務災害に当たらないとした労基署長の不支給処分が争われた事例。
参照法条 労働基準法施行規則別表1の2第4号
労働基準法75条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
裁判年月日 1992年9月21日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成4年 (行コ) 64 
裁判結果 棄却
出典 労働判例620号52頁
審級関係 一審/05906/宇都宮地/平 4. 3.25/平成1年(行ウ)6号
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 「本件において、控訴人は、Aの肝機能障害は前記の化学物質(原判決第三、一2)にさらされたことにより発症したものであると主張するので、労働基準法施行規則三五条別表第一の二、四項各号に該当するかどうかを検討すべきところ、同項1号に基づく労働省告示(昭和五三年第三六号。乙第一号証四六九頁)には、肝機能障害は右各化学物質への曝露により発症するものとしては規定されておらず(右各化学物質のうち、ブタノール及びイソプロピルアルコールについては記載がない。)、同項2号ないし7号は本件と無関係であるので、同項8号に該当するかどうかが問題となる。同項8号は『1から7までに掲げるもののほか、(中略)その他化学物質にさらされる業務に起因することの明らかな疾病』と規定しており、これらの疾病は、労働者が曝露された有害因子と疾病との間の因果関係が現在の医学上の知見により明らかであるとはされていないものである点において同項2号ないし7号所掲の疾病と異なっているから、業務起因性、すなわち、本件において、Aが塗装業務に従事中、労働の場において特定の有害因子である右各化学物質に一定量以上曝露されたことにより、肝機能障害を発症したことを主張立証すべき責任は、控訴人においてこれを負担すると解すべきものである。〔中略〕
 「控訴人は、労災保険法における業務と疾病との間の因果関係は、損害賠償制度における相当因果関係の概念と全く同一なのではなく、合理的に拡張して解釈されるべきであり、また、医学判断ではなく法律判断であるから、必ずしも疾病の原因が医学的に解明されることまでは必要でないと主張する。
 労働者災害補償制度は労災により損害を被った労働者の生活を保障する趣旨で、労災事故が業務上生じた死傷又は疾病である限り、行為者の過失の有無にかかわらず、また個別の損害が実際に生じたか否かを問わず、原則として法定補償額の支払いが義務付けられていること(労働基準法七五ないし八〇条、労災保険法第三章第二節、罰則として労働基準法一一九条一号)、補償に代えて支給される保険給付の原資が労働保険料の形で負担され、かつ、その徴収方法は国税徴収の例によるとされていること等の点で、通常の損害賠償制度と趣を異にする。因果関係の判断が法律判断の性質を有することは当然であるが、このような差異の存在は、業務と疾病との間に、単なる条件関係のみでなく、相当因果関係が存在することを要すると解すべきことを、通常の損害賠償制度よりも更に強く要求すると考えることもできるのであって、控訴人の前記主張は理由がない。」