ID番号 | : | 06034 |
事件名 | : | 遺族補償費等不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 廿日市労基署長(大原鉄工所)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 作業中の脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血に基づく死亡につき、業務災害に当たらないとした労基署長の不支給処分が争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法施行規則別表1の2第9号 労働基準法79条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性 |
裁判年月日 | : | 1992年9月30日 |
裁判所名 | : | 広島地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成2年 (行ウ) 2 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例624号55頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕 労働者災害補償保険法一二条の八が準用する労働基準法七九条及び八〇条における「労働者が業務上死亡した場合」とは、労働者がその業務に起因して死亡した場合、すなわち、労働者の業務の遂行とその死亡との間に相当因果関係がある場合を意味する。 そして、本件のように労働者に脳動脈瘤という基礎疾患が存する場合における右相当因果関係は、脳動脈瘤は諸々の要因によって破裂する危険性を有するものであることに照せば、労働者が業務の遂行中に死亡したというだけでは足りないが、業務以外の要因である脳動脈瘤の存在が共働原因となって労働者が死亡した場合でも相当因果関係を認めることを妨げず、業務が相対的に死亡の有力な原因になっている場合には、右相当因果関係は肯定されるべきである。 そして、本件において業務が相対的に有力な原因となっているか否かの判断に際しては、当該業務が脳動脈破裂の自然経過を超えて急激に発症させるに足りるだけの過重な負荷を与えたかどうかが重要な要素となるというべきである。なお、日常業務自体が過重負荷となって疾病発症の原因となっている場合もあり得るから、当該業務が過重負荷になっていたか否かは客観的に判断すべきであり、日常の業務に比して過重であったか否かだけによって判断するのは相当でない。 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 酸素ボンベ(満タン時の重さ六〇キログラム)の運搬も配管工なら誰でも一人で運搬し、秀夫にとっても慣れた作業であって、これを苦にしておらず、それも、二、三〇メートル移動しただけの短時間の作業であったから、これが身体的に過激な業務であったということはできない。また、右運搬作業と血圧の上昇等との関係についても、証人A(医師)は、「右作業により血圧は上がるだろうが、その程度はわからない。これがBの脳動脈瘤破裂の原因になったかどうかもわからない。」と証言しており、右短時間の運搬作業が急激な血圧上昇をもたらしたということもできない。 凝集沈澱槽内に入ったことについても、同槽内の温度が二五度より高温で湿度が高かったとしても、それが急激な血圧上昇をもたらすとも考え難いし、右槽内の設備工事はBらがしたものであるから、Bは右槽内に入ることに慣れており、特別緊張することもなかったと考えられる。右槽内の塗装の臭気についても塗装してから一か月以上も経過しており、C電機のDらは何度も右槽内に入っているから、その臭気がBの気分を悪くさせたということも考え難い。 Bは発症当時三二歳で若かったが、脳動脈瘤の大きさは約五ミリメートル位で破裂しやすい大きさであった。 以上検討したところによれば、Bが従事した業務が急激に同人の脳動脈瘤を破裂させるに足りるだけの過重な負荷を与えたということはできず、右業務が右破裂の有力な原因となったということはできない。 したがって、Bの本件疾病による死亡と業務との間に相当因果関係を認めることはできない。 |