全 情 報

ID番号 06042
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 東洋建材興業事件
争点
事案概要  昇給と賞与の支給に関するトラブルから怒って席を立って帰社し、名刺をくず篭に捨てて退社し、その後会社事務所の鍵を返し、また健康保険証を返還した労働者が合意解約が成立したものとされたことにつき雇用契約上の地位の確認を求めた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 退職 / 合意解約
裁判年月日 1992年10月26日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成3年 (ワ) 3361 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1500号21頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-合意解約〕
 前記認定事実に基づいて考察するに、原告は、平成二年八月七日、自ら被告を退職したいとする意思表示をしたものであるが、法律上、その意思表示は、合意退職の申込みとも、また、使用者たる被告の意思いかんにかかわりなく一方的に退職する旨の雇用契約解約の告知とも解釈し得るものといえる。そして、被告は、右とその後の一連の事実経過を主張しつつ、その法律構成として、同日の原告の発言は合意退職の申込みであり、被告はこれを同日受け入れたから、ここに原被告間の退職合意が成立したと主張する。しかし、同日中に被告から原告に対して明示の承諾の意思表示がなされたものと認めるに足りる証拠はない。被告としては、黙示の意思表示と構成しているようでもあるが、原告の退職の意思表示に対する当日の被告の態度としては、被告代表者が、同日の喫茶店でのやりとりの際、原告が当該意思表示をして席を立ったのに対して、自分も席を立って勘定の支払に行き、原告を引き止める言動に出なかったこと、被告会社に先に帰社した原告が、間もなく戻った被告代表者らの面前で前示のような言動の後退社した際に、これを引き止めたりしなかったことが認められただけであり、これらの事実だけでは、合意退職の意思表示に対する承諾の意思表示があったと解することはできない。しかしながら、被告は、同月一七日には、原告に対し、文書で健康保険証と被告会社の鍵の返還を求めているところ、右は原告の合意退職の意思表示に対する承諾の趣旨を包含するものと解されるから、これが原告に到達した時点で退職の合意が成立したものと認めるのが相当である。