全 情 報

ID番号 06050
事件名 障害補償費不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 川崎南労基署長(住友生命)事件
争点
事案概要  保険外務員がその勤務中に生じた脳出血に起因する後遺障害につき障害補償給付の支給を請求したことに対して、右請求権は時効消滅しているとしてなされた労基署長の不支給処分が争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法42条
労働基準法77条
体系項目 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 時効、施行前の疾病等
労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 障害補償(給付)
裁判年月日 1992年11月26日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 平成3年 (行ウ) 24 
裁判結果 棄却
出典 労働判例624号41頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-障害補償(給付)〕
 労災保険法一二条の八、労働基準法七七条は、「労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、なおったとき身体に障害が存する場合」に障害補償給付を行う旨規定する。ここに「なおったとき」とは、負傷又は疾病による症状が固定し、治療の効果を期待し得なくなった時をいうものと解すべきである。
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-時効、施行前の疾病等〕
 労災保険法四二条は、障害補償を受ける権利は五年を経過したときに時効によって消滅する旨を規定するところ、法令上、その消滅時効の起算点については特別の規定がないから、右権利の消滅時効については、原則規定である民法一六六条一項が適用され、「権利を行使することを得る」時から進行することになる。そして、この「権利を行使することを得る」とは、単にその権利の行使につき法律上の障害がないというだけでなく、さらに権利の性質上、その権利の行使を現実に期待し得るものであることをも必要とすると解すべきである。
 これを障害補償給付請求権についてみると、その権利は、「労働者が業務上負傷し又は疾病にかかり、なおったとき身体に障害が存する場合」に発生するものであるから、その権利を行使することを得る時とは、当該労働者がその負傷若しくは疾病が業務上生じたものであることすなわち業務起因性とその負傷若しくは疾病による身体障害の症状の固定を知った時、又は通常人であれば当然業務起因性及び身体障害の症状が固定したことを知り得るようになった時に権利の行使を期待し得る状態になったというべきである。〔中略〕
 その業務が過重であることは、原告自身もっとも良く知り得ることであるから、過重な業務が脳出血の原因であるのであれば、意識を失っていた脳出血の発症直後はともかく、意識を回復してから症状が固定するまでの間に、そのことを知ったものと推認することができるし、仮にそうでなくても、右の疾病の性質と業務の態様とに鑑みると、通常人であれば、意識を回復した後、症状が固定するまでの間に、その業務起因性を知ることができたものといえる。そして、前述のとおり、原告の症状は、遅くとも昭和五六年七月二五日に固定しており、(証拠略)によれば、原告は、A病院に入院中の昭和五五年一一月に症状が固定したことを前提として川崎市身体障害者更生相談所に身体障害者手帳の交付を申請していること、同年一二月三日に新川橋病院を退院する際に、同病院の医師から、内科的には治療するべきものがないと言われてリハビリテーションを勧められたこと、昭和五六年七月二五日にはB病院の医師からリハビリテーションが終わったことを告げられていることなどが認められるから、これらの事実関係のもとでは、原告は、そのリハビリテーションが終わった時には症状が固定したことを知ったものとみることができる。したがって、その後遺症についての障害補償給付請求権の消滅時効は、その翌日から進行するものというべきである。