ID番号 | : | 06057 |
事件名 | : | 労災保険不支給決定取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 大阪中央労基署長(第一交通)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | タクシー運転手の心筋梗塞による死亡につき、業務災害に当たらないとした労基署長の不支給処分が争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法79条 労働者災害補償保険法16条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性 |
裁判年月日 | : | 1992年12月14日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成2年 (行ウ) 21 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働判例620号25頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕 労働者が業務上死亡した場合とは、労働者が業務に基づく傷病に起因して死亡した場合をいい、右傷病と業務との間には相当因果関係のあることが必要であり、その傷病が原因となって死亡事故が発生した場合でなければならない。傷病の発生に関して業務を含む複数の原因が存在する場合は、業務が傷病発生の相対的に有力な原因であるならば業務と傷病との間に相当因果関係があるということができる。この考え方は、労働者にもともと存在した傷病の素因や基礎疾病が業務の遂行により誘発されあるいは増悪し、それが原因となって労働者が死亡した場合の業務起因性の判断にあたっても妥当する。 Aは後記のとおり心筋梗塞によって死亡したのであるから、その心筋梗塞と業務との間に相当因果関係があれば、死亡は業務上のものということができる。そして、Aは心臓疾患、糖尿病、喫煙等の心筋梗塞の基礎疾病、素因を有していたから、業務が右心筋梗塞発症の相対的に有力な原因であるならば、業務と右心筋梗塞との間に相当因果関係があるということができる。 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 Aには心臓疾患があり、昭和五六年以来治療を継続していたにもかかわらず症状が進行し、相当程度重篤な状態にたち至っていたこと、さらに糖尿病(軽度であるが)、喫煙という心筋梗塞発症の因子を有していたこと、血液検査の結果によっても早くから心筋梗塞発症の危険が認められること、死亡から半月ほど前の一月一四日深夜に起こした心臓発作は本件心筋梗塞の前駆症ではないかと考える余地もないわけではない(〈証拠略〉によると、心筋梗塞の発作前に狭心痛等の前駆症があることがあり、発作一月前以内に前駆症の現れる割合は五〇パーセント以上である。)ことからすると、本件心筋梗塞はAがもともと有していた心筋梗塞の基礎疾病、素因が自然的経過によって増悪したことにより生じたのではないかと疑う理由が十分にある。 2 Aの業務上の負荷について 昭和五八年一二月一五日にB交通でタクシー乗務を始めるまでのAのタクシー運転業務が過重であったと認めるに足りる証拠はない。 B交通で日勤の勤務形態であった時期をみると、まず、労働時間については、乗車開始時刻がほとんど午前七時台であり入庫時刻がほとんど午後五時台であることは、B交通の日勤昼勤の勤務形態の所定労働時間にほぼ従うものといえる(なお、〈証拠略〉によれば、B交通における勤務形態はいずれも二七通達に従うものである。)。事実上隔日勤の勤務形態であった一月一日、三日、一五日については、一月一日は、乗車開始時刻午前八時四〇分、翌朝入庫時刻午前一二時三〇分、休憩時間合計二時間一〇分であり、B交通の「隔日勤A」の勤務形態の所定労働時間よりも短く、一五日はそれぞれ午前八時二〇分、午前四時〇〇分、六時間四五分であり、同「隔日勤A」の勤務形態の所定労働時間を超えるがその分休憩時間が長くなっている(一月三日はタコメーターがないので不明)。次に、休日については、一二月二四日、一月五日、八日、一七日に公休をとり、一月一八日に欠勤している。 B交通で隔日勤の勤務形態に変わった後の時期をみると、まず、労働時間については、乗車開始時刻、翌朝入庫時刻ともB交通の隔日勤Aの所定労働時間の範囲を超える(一月二三日はタコメーターがないので不明)が、休憩時間は長くなっており、実労働時間は一月二五日が一七時間二〇分、二七日が一五時間二五分、三〇日が一五時間四五分であって、B交通の隔日勤Aの実労働時間を大幅に超えるものではない。次に、休日については、一月二一日に欠勤し、二二日、二九日に公休をとっている。また、走行キロ、乗車キロ、乗車回数をみても、(証拠略)によって認められるB交通のタクシー運転手の平均的な値を大幅に超えるものではない。 死亡前日は隔日勤の勤務明けであり、死亡当日も、業務によって過重の負荷を受けたと認めるに足りる証拠はない。 昭和五八年一二月からのB交通におけるタクシー運転業務全般についてみても、Aの勤務実績は年齢の近い同僚の勤務実績とたいした違いはない。 原告は、およそ一年間の日勤の後に隔日勤に変わったことが過重負荷となると主張するが、一年間も日勤をしていたとは認められないし、また、隔日勤に変わってからの業務も右にみたように過重であるといえないから、隔日勤に変わったことが過重負荷になるということはできない。 原告は、タクシー運転業務が心筋梗塞の発症に対して悪影響を及ぼすことを強調するが、タクシー運転業務と心筋梗塞との有意の関連性を認めるに足りる証拠はない。 このようにみてくると、Aに過重な業務負荷がかかったとか、業務による慢性的なストレスが蓄積していたということはできない。 3 以上を総合的に考慮すれば、Aの業務上の負荷が自然的経過を超えて本件心筋梗塞を発症させたと認めることはできず、業務が本件心筋梗塞発症の相対的に有力な原因であるとはいえない。したがって、業務と本件心筋梗塞との間に相当因果関係があるということはできない。 |