全 情 報

ID番号 06064
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 全税関横浜事件
争点
事案概要  税関職員で組織する労働組合の組合員らが、昇任、昇格、昇給等で不当な差別があったとして、標準的な第二組合員の賃金との差額、慰謝料等の請求を求めた事例。
参照法条 国家公務員法27条
国家公務員法108条の7
民法709条
労働基準法3条
国家賠償法1条1項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど)
裁判年月日 1992年12月24日
裁判所名 横浜地
裁判形式 判決
事件番号 昭和49年 (ワ) 847 
昭和50年 (ワ) 111 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 時報1451号33頁/タイムズ809号84頁/訟務月報39巻9号1615頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
 右に述べたとおり、昇任等をさせるか否かは税関長の裁量行為であるが、国公法二七条に定める平等取扱いの原則、同法一〇八条の七に定める不利益取扱い禁止の原則、同法三三条一項に定める成績主義の原則に照らし、昇任等について考慮すべき経歴、学歴、知識、資格、能力、適性及び勤務実績において、格別の相違がないにもかかわらず、原告組合に所属していることを唯一の理由として、原告組合員を非組合員(本件第二組合所属の職員及びいずれの組合にも所属していない職員)と差別して昇任等をさせなかったときは、税関長のその行為は、当該原告組合員に対する不法行為を構成すると共に、原告組合の団結権を侵害するものとして、原告組合に対する不法行為を構成することもあり得るものである。〔中略〕
 原告らは、各個人原告に対応する標準対象者を設定し、その比較において、両者の間に格差があることを主張する。
 このような方法で比較する場合に、どのような者をもって比較対象者とするかは、極めて困難な問題であり、原告らの主張するような方法で標準対象者を選定してみても、被告の主張するような矛盾を孕むことになり、これが厳密な意味での格差を算定するのに相当な方法であるかは疑わしい。
 しかしながら、弁論の全趣旨によれば、原告らの主張する標準対象者は、概ね、これに対応する個人原告と入関時期、入関資格が同じで、比較的標準的な経過をたどって昇任等をしている者であり、個人原告は、それぞれ、この標準対象者と比較して、本件係争期間中、昇任等と賃金において、ほぼ原告らの主張する程度に低位に置かれ、その結果、同期間中の賃金総額において、標準対象者のそれよりもほぼ原告ら主張のとおりの金額(別紙請求債権目録の賃金相当損害金の項記載の金額)程度少なくなっていることが認められるから、両者の間に昇任等と賃金について格差のあることは明らかである。〔中略〕
 右の格差が本件非違行為等によるものであるとしても、その非違行為等の程度に照らしてその格差が著しく不相当のものであれば、それは税関長の裁量権を越えるものとして違法となる。
 しかしながら、前述のように、原告組合は、昭和三〇年代半ば以降、次第に政治闘争、実力闘争に走るようになり、当局の税関運営に関する基本方針、殊に業務の合理化に反対し、実力をもって、当局の管理運営権を排除しようとして、税関庁舎において、勤務時間の内外を問わず、当局の許可を受けることなく、執務室や公衆溜まりで職場集会を開き、税関長その他の職制に対し、話合いと称する団体交渉を求め、実現不可能な要求を突き付け、その要求が容れられないとして集団で吊し上げをするなどしていた。特に、昭和三五年六月には、安保改定反対闘争の一環として、勤務時間内に庁舎において、赤鉢巻姿でピケを張って職員の出勤を妨害したり、ジグザグデモ行進をしたり、職場大会を開いてスクラムを組んで労働歌を高唱したりして、税関の秩序を乱し、業務の運営を妨害した。このような組合活動が、A税関長就任以降、当局の規制に反発してますます増幅され、そのまま、本件係争期間に至ったもので、本件非違行為等は、こうした背景のもとに行われたものである。しかも、それは、長期間の多数回にわたるものであり、その内容も、無許可集会、抗議行動、執務妨害、横断幕掲出、職務命令不服従、不法文書貼付、リボン等着用その他の行動を、当局の事前の警告や現場での中止命令、解散命令、職場復帰命令を無視して行ったもので、職場の秩序を乱し、業務の運営を阻害する悪質なものである。
 こうした本件非違行為等の内容とこれが税関の業務運営に及ぼす影響、当該個人原告の懲戒処分歴等及び先に述べた昇任等の性質に照らすと、前述の本件係争期間中の昇任等と賃金の格差(原告らは、本件係争期間後の昇給等の格差をも主張するが、本件は、本件係争期間中の不法行為を理由としてその期間中に生じた損害の賠償を求める事案であるから、その主張の点は、ここでは考慮しない。)は、横浜税関長の裁量権の範囲内の行為によって生じたものというべきである。
〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
〔労基法の基本原則-均等待遇-信条と均等待遇(レッドパージなど)〕
 以上要するに、原告らは、何の違法不当な行為をしていないのに、原告らの掲げる思想、信条だけを理由に当局から不当な弾圧を受け、差別を受けたと主張するものであるが、右に判断したとおり、原告らは、いずれも、違法行為を行っており、当局は、法の適正な執行を図るため、原告組合に対しては、違法な組合活動を排除し又は防止するに必要な限度で規制したものであり、個人原告らに対しては、その違法行為に加担したことを斟酌してその裁量権の範囲内で昇任等の適否を判断したのであって、原告らがその思想や信条を有することを理由にこれをしたものではない。もとより、思想、信条による差別の有無といったことは、事柄の性質上、個々の具体的事実を個別断片的にみるだけでなく、背景事情を含めて総合的にみなければ的確な判断を下すことができないものであるが、以上の判断は、これらの事情も考慮した上でのものである。
 したがって、当局の行為に違法な点はないから、これが違法であることを前提とする原告らの本訴請求は、この点でいずれも理由がないことになる。