全 情 報

ID番号 06069
事件名 遺族補償費等不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 北大阪労基署長(西部ゴム)事件
争点
事案概要  工業用ゴム製品の販売会社の営業所の所長が勤務中に脳内出血により死亡したことにつき、遺族がストレス等による極度の精神的、肉体的疲労によるものだとして、業務災害に当たらないとした労基署長の不支給処分を争った事例。
参照法条 労働基準法79条
労働者災害補償保険法16条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
裁判年月日 1993年1月29日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成2年 (行ウ) 41 
裁判結果 棄却
出典 労働判例628号64頁/労経速報1497号11頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 労基法上の「業務上死亡した」場合とは、業務と死亡原因たる疾病の発症原因との間及びその発症原因と死亡原因たる疾病との間に相当因果関係があること(業務起因性)、換言すれば、業務が発症原因の中で相対的に有力な原因と認められることをいう。業務に起因しない基礎疾病が増悪して死亡に至った場合、業務が発症原因の中で相対的に有力であるというためには、当該疾病が業務により自然経過を超えて著しく増悪したと認められることを要する。
 基礎疾病が業務により自然経過を超えて著しく増悪したか否かの判断は、基礎疾病の病態、程度、業務内容、就労状況等を総合してなされるべきであり、発症当日または直前一週間の業務上の過重負荷(自然経過を超えた著しい増悪を肯定する有力な要素ではある)の有無のみによって決すべきではない。
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 滋賀営業所時代は通勤時間を含めると一日およそ一六時間を就労のために費やしており、相応の疲労が生じたであろうことは推認できる。しかし、先に認定したように、敏雄は、当時の健康診断において何ら異常はなく、受診歴もないのであるから、疲労の程度が著しかったとは認められない。
 大東営業所時代の自宅就労は、訴外会社の命によるものではないが、業務性を否定すべきではない(同営業所の業務量は多く、女子事務員は病身であり、訴外会社もこれを認識していた(〈証拠略〉)し、伝票の整理等は訴外会社の業務運営に必須であった)。そこで、その就労状況を検討するに、(証拠・人証略)、原告本人によると、訴外会社では当日の伝票は翌日本社に提出することになっていたところ、女子従業員が病身で事務処理量が少なかったため、Aは昭和六三年六月ころから書類を持ち帰って処理することがあったこと、特に請求書作成はその性質上単独で処理することを要したため毎月二〇日からの請求書作成時期には午前二時ころまでかかることもあったこと、Aの死亡時、自宅には段ボール箱(五〇センチメートル×三〇センチメートル×三〇センチメートル)三個程度の未処理の売上伝票類があったことが認められ、これらの事実によるとAの自宅就労は相当長時間にわたったとも考えられる。しかし、女子事務員は病弱とはいえ八割方は出勤していたのであり(〈証拠・人証略〉)、同人の病気によるAの業務量の増加の程度は不明であるし、発症当日は、請求書作成時期ではなく、他に特段繁忙であったと認めるに足りる証拠はない。原告本人は、発症二週間前から休日以外に夜も仕事をするようになり、発症二、三日前から殆ど徹夜状態であり、発症前日(休日)も午前八時頃から一六日午前三時まで食事時間以外は仕事をしていたと供述するが、発症前二週間は繁忙な時期ではなかったこと、多量の未処理伝票が残っていたことに照らし、直ちに採用することはできない。したがって、Aの自宅就労が過度の蓄積疲労を生じさせたと認めることはできない。
 (3) 次に、原告主張の取引上のトラブルについて検討する。
 先に認定したように、滋賀営業所のトラブルについては、Aは途中で転勤し最終的な判断はしていないこと、後任所長に特に引継ぎもしていないことによると、過大な精神的ストレスを与えるものとは認められず、大東営業所の出来事は特にトラブルという程のものではない。
 (三) 以上によれば、Aの従事していた業務が本件基礎疾病を自然経過を超えて著しく増悪させたと認めることは困難である。