ID番号 | : | 06073 |
事件名 | : | 労災保険不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 和歌山労基署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 戦前にベンジジン業務に従事して労災保険の施行後にぼうこうがん等にかかったとして労災保険の給付を請求したことに関連して、労災保険の施行前の業務につき労災保険が適用されるか否かが争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法12条の8 労働者災害補償保険法附則57条2項 労働基準法附則129条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 時効、施行前の疾病等 |
裁判年月日 | : | 1993年2月16日 |
裁判所名 | : | 最高三小 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成2年 (行ツ) 45 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 民集47巻2号473頁/時報1464号36頁/タイムズ823号106頁/訟務月報40巻1号144頁/裁判所時報1093号6頁/労働判例624号6頁 |
審級関係 | : | 控訴審/05248/大阪高/平 1.10.19/昭和61年(行コ)18号 |
評釈論文 | : | 岩村正彦・平成5年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1046〕231~232頁1994年6月/宮島尚史・判例評論420〔判例時報1476〕227~232頁1994年2月1日/窪田隼人・民商法雑誌109巻4・5号206~216頁1994年2月/山口浩一郎・月刊法学教室159号98~99頁1993年12月/品田充儀・社会保障判例百選<第3版>〔別冊ジュリスト153〕122~123頁2000年3月/片桐由喜・日本労働法学会誌82号186~193頁1993年10月/保原喜志夫・ジュリスト1027号75~79頁19 |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-時効、施行前の疾病等〕 労働者災害補償保険法に基づく保険給付の制度は、使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行うものであるから(最高裁昭和五〇年(オ)第六二一号同五二年一〇月二五日第三小法廷判決・民集三一巻六号八三六頁)、本件被災者らの疾病が、労働者災害補償保険法による保険給付の対象となるといえるためには、右疾病が、労働基準法による災害補償の対象となるものでなければならない。そこで、労働基準法による災害補償の対象となる疾病の範囲についてみるのに、同法は、広く、業務上の疾病を災害補償の対象とするものであり(同法七五条ないし七七条)、同法附則一二九条は、その文理からして、右の業務上の疾病のうち、同法施行前に疾病の結果が生じた場合における災害補償については、なお旧法の扶助に関する規定による旨を定め、右の場合のみを労働基準法による災害補償の対象外としているものと解されることにかんがみると、労働基準法の右各規定は、同法の施行後に疾病の結果が生じた場合における災害補償については、その疾病が同法施行前の業務に起因するものであっても、なお同法による災害補償の対象としたものと解するのが相当である。 所論は、労働基準法に基づく使用者の災害補償責任は、使用者が労働契約に基づき労働者をその支配下に置き労務の提供をさせる過程において、労働者が負傷し又は疾病にかかるなどした場合に、使用者にその損失を補てんさせる点にその本質があるのであるから、使用者は、その責任の根拠となる業務上の事由が生じた時点における法規に基づく責任を負担するにとどまるものであると主張するが、災害補償責任の本質が右のようなものであるからといって、可及的に被災労働者の救済を図るという見地から、労働基準法の施行前に従事した業務に起因して同法施行後に発病した場合をも同法の適用対象とすることが許されないとすべき理由はない。 そして、労働者災害補償保険法もまた、同法の施行後に疾病の結果が生じた場合については、それが同法施行前の業務に起因するものであってもなお同法による保険給付の対象とする趣旨で、同法附則五七条二項において、同法施行前に発生した業務上の疾病等に対する保険給付についてのみ、旧法によるべき旨を定めたものと解するのが相当であり、健康保険法の一部を改正する等の法律(昭和二二年法律第四五号)附則三条ないし五条の規定の文言も、右解釈の妨げとなるものではない。また、一般に、保険制度に基づく保険給付は、本来、費用負担者から拠出された保険料を主な財源とするものである以上、保険制度が発足する以前に原因行為があり、結果がその発足後に発生した場合に、これを保険事故として保険給付をすることは、例外的な扱いであるといわなければならないが、業務上の事由によって被害を受けた労働者に対する補償を実効的に行うことを目的として労働者災害補償保険制度が導入されたことなどから考えると、前記のように、労働者災害補償保険法がこれを保険給付の対象としたことには、合理的な理由があるものということができる。 そうすると、労働者災害補償保険法施行後に生じた本件被災者らの疾病は、本件被災者らがベンジジンの製造業務に従事した期間が同法施行前であるからといって、同法七条一項一号所定の業務上の疾病に当たらないということはできず、同法一二条の八所定の保険給付の対象となり得るものというべきである。 以上と同旨の原判決は、正当として是認することができる。論旨は採用することができない。 二 同第二点について 本件不支給決定の理由は前示のとおりであり、上告人は、本件被災者らの疾病が第一審判決別表(一)記載のベンジジン製造業務就労事業場における業務に起因するものであるか否かの点については調査、判断することなく、専ら本件被災者らが右業務に従事した期間が労働者災害補償保険法の施行前であることを理由に、本件不支給決定をしたことが明らかである。被災労働者の疾病等の業務起因性の有無については、第一次的に労働基準監督署長にその判断の権限が与えられているのであるから、上告人が右の点について判断をしていないことが明らかな本件においては、原判決が、本件被災者らの疾病の業務起因性の有無についての認定、判断を留保した上、本件不支給決定を違法として取り消したことに、所論の違法はない。論旨は採用することができない。 |