全 情 報

ID番号 06105
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 アパート「マサミ荘」事件
争点
事案概要  アパートの管理人が盗難により保管していた賃料分について損害賠償義務を負わないこと、および賃金請求権と損害賠償との相殺を合意していないことの確認の訴えが認められた事例。
参照法条 民法419条2項
労働基準法24条1項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 教員の職務範囲
裁判年月日 1988年5月25日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和61年 (ワ) 11282 
裁判結果 認容
出典 労働判例519号89頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-教員の職務範囲〕
 そして右の事実によれば、本件盗難は、前記隣接マンション内に入らなかった男が管理人室に侵入しバールを使用して机の引き出しの施錠を破壊し本件賃料等を盗んだものと推認されるが、本件盗難については、原告が管理人室に鍵を掛けていれば、これを防ぎえたかもしれないが、そもそも被告は、事前に原告に対し鍵を掛けることを具体的に指示していなかったこと、また集金した賃料等を翌月一日まで保管することを許容していながら管理人室に金庫を設置していなかったことが認められるものであり、したがってこのような場合、本件盗難につき原告に過失があったと解するのは相当ではなく、原告は、本件盗難につき無過失であったと解するのが相当である。そしてこのような原告は、民法四一九条二項但書にかかわらず、金銭の回収を委任された受任者が回収した金銭につき盗難に遭った場合と同様、被告に対する本件賃料等を引き渡す債務及び同債務の履行不能による損害賠償債務を負わないと解するのが相当である。
 二 次に抗弁事実については、証人Aの証言及び被告本人尋問の結果中には右にそう部分があるが、これらは採用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
 かえって(証拠略)を総合すると、
 1 原告は、昭和六一年八月一〇日ころ同年七月分の賃金の支払を受けた際に被告から、原告に対する賃金支払債務と原告の本件賃料等の引渡し債務とを相殺したい旨言われたこと、
 2 その後も原告は、被告から、同旨を言われたこともあったが、これを承諾してはいなかったこと、
 3 そして原告は、昭和六一年九月一一日、訴外Aが同席している際にも被告から、同旨を言われ、原告が同月一九日限り被告に対し本件賃料等と未払賃金(同年八月分を金八万円と評価する。)の差額概算金一八万七〇〇〇円を支払って一切解決したい旨提案されたが、これを承諾しなかったこと、
 4 なお昭和六一年九月一一日の交渉については、被告側としてはこれにより合意が成立したものとして訴外Aが帳簿(〈証拠略〉)にその旨の記載をしたが、原告は前記のとおり承諾しなかったものでしたがって念書等の債務を確認する書類も作成されなかったこと、
 以上の事実が認められ、証人Aの証言及び原告、被告の各本人尋問の結果中右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
 そして右の事実によれば、原告の賃金債権は相殺を禁止された債権であるところ、右のとおり原告と被告との間には、結局相殺契約は成立しなかったものであり、したがって抗弁事実は認められないものである。