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ID番号 06134
事件名 労災保険不支給処分取消請求控訴事件
いわゆる事件名 山口労働基準監督署長事件
争点
事案概要  脳動脈奇形の基礎疾病を有する夜間定期便大型自動車運転手のくも膜下出血につき業務起因性がないとした監督署長の処分が適法とされた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項
労働者災害補償保険法12条の8
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1993年3月29日
裁判所名 広島高
裁判形式 判決
事件番号 平成3年 (行コ) 3 
裁判結果 棄却(上告)
出典 タイムズ822号216頁
審級関係 一審/山口地/平 3. 2.21/平成4年(行ウ)4号
評釈論文 飯塚宏・平成5年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊852〕332~333頁1994年9月
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 「労災保険法による保険給付の一種類である療養補償給付が支給されるには、同法七条、一二条の八第二項、労働基準法七五条にいう「業務上の疾病」に該当すること、すなわち、当該疾病が労働者が従事していた業務に起因して発症したこと(業務起因性)の認定がなされる必要があるところ、労災保険法による保険給付は労働基準法に規定された危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する保険制度であることに鑑みると、業務起因性の認定においては、単に当該疾病が業務遂行中に発症したというだけでは足りず、業務に内在ないし通常随伴する危険の現実化と認められる関係があるかどうかの判断が要請されるものと解するのが相当である。したがって、業務と業務に関連のない基礎的疾患等が共働して当該疾病が発症した場合において、業務起因性が肯定されるには、業務に内在ないし通常随伴する危険が当該疾病の発症に相対的に有力な原因となったと認められることが必要であって、単に業務が当該疾病発症の誘因ないしきっかけに過ぎないと認められる場合は、業務起因性は認められないと解するのが相当である。ことに、脳心疾患については、その発症の原因となる有害、危険因子としては日常生活を含めた多様な出来事が指摘され、また、基礎疾患及びその促進因子は業務に直接関連のないものが多いことから、業務起因性の認定に当たり、業務が相対的に有力な原因となったと認められるには、当該疾病の発症前及び発症時の業務内容が労働者に過重負担となって当該疾病を発症させたと判定される必要がある。
 なお、右業務起因性の認定においては、その肯定を主張する被災者側に立証責任があるというべきであり、業務内容が当該疾病を引き起こす過重負担となったかどうかについては、その立証事項の性質上、被災者である労働者の側には手持ち資料がない場合が多いことから、業務起因性を否定する行政機関等の側に積極的立証活動(反証)を促すべきことは当然であるが、業務遂行中に発症したことをもって、直ちに右立証責任が転換されるとまで解するのは相当でない。」
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 そこで検討するに、前判示のとおり、控訴人は、本件疾病発症の約三か月前から睡眠不足を訴え、体重が約一四キログラムも減少したことが認められるが、この間の訴外会社における業務内容は従前と変化がなく、それらの原因が夜間勤務にあると断じるに足る資料はないものであって、前日の事故もベテランの自動車運転者である控訴人にとって、とりわけ過重負担となったとまでは認め難く、発症当日自宅を出るのが三〇分遅れた事実はあるが、これによって、ことさら荷積み等を急がされたとの事実を認めるに足りる証拠はない。
 そして、控訴人が本件疾病発症時に従事していた自動車運転業務と脳動静脈奇形の破裂による本件疾病発症との因果関係についてみるに、確かに、証拠(〈書証番号略〉、当審証人渡辺浩策)によれば、脳動静脈奇形の破裂には血圧の上昇が関係するとされており、自動車の運転業務は、特に開始早々の時期等には血圧上昇を招く一因となるものであって、しかも、控訴人の右業務は自動車運転の中でも比較的に精神的緊張を伴う大型車の夜間運行であったことが認められ、その意味から、控訴人の基礎疾患である脳動静脈奇形の破裂に自動車運転業務が共働原因として働いたことは否定できないといえる。
 しかしながら、証拠(〈書証番号略〉、当審証人渡辺浩策)によれば、脳動静脈奇形は、加齢とともに自然増悪し、血管の脆弱化が進行して、その限界に達した段階で、最後の要因として血圧上昇が加わって破裂に至るものであって、右血圧上昇は、自動車運転業務に限らず、排尿、排便、階段昇降、咳嗽等の日常生活上の行為によっても生じるものであり、控訴人の脳動静脈奇形の破裂は、右日常生活上のあらゆる機会に発生してもおかしくない状態にあったことが認められる。一方、控訴人が本件疾病発症時に従事していた自動車運転業務は、前判示のとおり、平常と変わらない、いわば慣れ親しんだ定期運行であって、運転開始後約一時間を経た状態にあり、ことさら右業務が過重負担となって急激な血圧上昇を招いたものとは認め難いといわざるを得ない。
 そうすると、控訴人の本件疾病は、加齢とともに自然増悪した基礎疾患の脳動静脈奇形が、偶々、自動車運転業務中に発症したものと認められ、自動車運転業務による血圧上昇が共働原因になったとしても、それが本件疾病発症に対して相対的に有力な原因になったものとは認め難いという外ない。」