全 情 報

ID番号 06136
事件名 地位確認等請求控許/同附帯控訴事件
いわゆる事件名 千代田化工建設(本訴)事件
争点
事案概要  赤字対策として工場の分離・子会社化することにともない移籍を命じた労働者がこれを拒否したため、「会社が経営規程の縮少を余儀なくされ、または会社の合併等により他の職務への配置転換その他の方法によっても雇用を続行できないとき」にあたるとしてなした解雇が無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更
裁判年月日 1993年3月31日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成4年 (ネ) 1286 
平成4年 (ネ) 3923 
裁判結果 棄却
出典 労働判例629号19頁
審級関係 一審/05908/横浜地/平 4. 3.26/平成2年(ワ)222号
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更〕
 一 企業の業績不振または業務縮小に伴う人員削減が、希望退職、出向、配置転換、自然減による欠員の不補充などの任意的手段で行われるのでなく、解雇という方法で行われるときは、労働者はその責任のない事由により意に反して職を失い、生活上重大な不利益を受けることになるので、そのような事態が肯認され得るには、解雇時点において使用者側に合理的かつ客観的に首肯し得る程度の人員削減の必要性があり、解雇に至るまでに解雇を回避するための諸措置をはかる努力が十分なされたこと、経営危機の実態や人員整理の必要等について労働者側に十分な説明をし、協議が尽くされたこと等の条件が満たされなければならないと解される。なぜなら、わが国の場合、一般に労働者は、特段の事情がなければ、企業に終身雇用されることを期待して就労するのが通例であり、途中退職のばあい、特に中高年齢層労働者にとっては、再就職は困難か著しく不利な条件を余儀なくされることは公知の事実であり、一方企業の側でも、特段の事情のない限り、このような労働者側の意識を十分認識のうえ採用するものである以上、このような労働者の期待に出来る限り応え雇用維持を図ることが、継続的法律関係である労働契約における信義則上要請されているものというべきであるからである。したがって、使用者側における業務縮小に伴い、ある時期に一定の職種の労働者の労働力が不要になったからといって、直ちにその者の解雇がなんらの制約なしに許容されるものではなく、当該企業の規模、業績、人員削減の必要性・緊急性の程度、希望退職や自然減による他の職種・職場における欠員の可能性、本人の職種転換の能力、職種転換に要する訓練等の費用・時間などを総合勘案し、その者を雇用し続けることが企業経営上なお相当に困難であり、その者の解雇が労働契約上の信義則を考慮してもやむを得ないと認められる場合であれば格別、右要件に該当しない解雇は、前記のいわゆる整理解雇の要件を欠くものであり、解雇権を濫用するものとして無効となると解せられる。そして、このことは、本件の場合のように、会社は、業務縮小あるいは職種転換等によっても雇用継続困難の場合解雇することができる旨就業規則及び労働協約で定められ、特にそのような要件が明示されていない場合であっても、その解釈適用にあたっては、上記のような考慮を及ぼすことが条理上要請されているというべきである。