全 情 報

ID番号 06147
事件名 労働者災害補償不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 渋谷労基署長事件
争点
事案概要  脳動脈瘤の基礎疾病を有するタンクローリー運転手のくも膜下出血による死亡につき、業務起因性は認められないとした労基署長の処分が適法とされた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法7条1項
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1993年6月8日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成2年 (行ウ) 190 
裁判結果 棄却
出典 労働判例634号30頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 1 労働者の死亡に業務起因性が認められるためには、死亡と当該業務との間に相当因果関係の存在が必要であると解されるところ、前記事実によると、Aには先天性の脳動脈瘤が存在し、その脳動脈瘤の破裂によりくも膜下出血をきたして死亡に至ったものと認められる。このように、労働者の病的素因ないし基礎疾患が原因となって死亡した場合、その死亡と業務との間に相当因果関係があるというためには、業務に起因する過度の精神的、肉体的負担が、基礎疾患等の自然的経過を超えてこれを増悪させ、その結果、発症に至るなど、業務が病的素因ないし基礎疾患とともに死亡に対する共働原因となったことが認められなければならないというべきである。
 そこで、前記事実に基づき検討するに、Aの発症に至るまでの勤務状況、発症当日の勤務状況に関して、精神的、肉体的に強度の緊張等を与えるような事情があったとは認められないし(なお、証拠上、発症直前に車の接触事故等の突発的な出来事があったことも認められない。)、業務の内容も、タンクローリー車による危険物の運搬であるとはいえ、Aは、昭和四二年に訴外会社に就職して以来、右業務に携わってきたもので、長年の経験を有し、業務には慣れていたものと考えられる。業務の負担についても、早出残業時間の点を考慮に入れても、質、量ともに著しく過重であったとはいえないし、発症当日の業務は、ほぼ平常どおりのもので、特に過重であったわけではなく、当日の気象も比較的平穏であったということができる。以上の点や、前記認定のくも膜下出血に関する医学的知見、B、C両医師の本件に関する意見を総合すると、Aの疾病は、業務に起因する過度の精神的、肉体的負担によるものではなく、同人の有する基礎疾患である脳動脈瘤が高血圧、軽度肥満、加齢等により自然に増悪して破綻するに至った結果生じたものであり、それがたまたま業務中に発症したにすぎないものと認められる。そうすると、Aの疾病及び本件死亡には業務起因性がないといわなければならない。