ID番号 | : | 06151 |
事件名 | : | 割増賃金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 大星ビル管理事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | ビル設備の保守業務に従事する不動産管理受託会社の従業員に対する八時間の仮眠時間につき、労働からの解放を保障されず、仮眠の場所も特定されていること等により、労働基準法上の労働時間にあたるとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法32条 労働基準法37条 |
体系項目 | : | 労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 手待時間 |
裁判年月日 | : | 1993年6月17日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成1年 (ワ) 3601 |
裁判結果 | : | 認容(控訴) |
出典 | : | 労働民例集44巻3号542頁/時報1463号40頁/タイムズ819号278頁/労経速報1497号3頁/労働判例629号10頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 宮本光雄・平成5年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1046〕220~222頁1994年6月/金子征史・法律時報66巻6号129~132頁1994年5月/荒木尚志・ジュリスト1035号156~159頁1993年12月1日/山本吉人・判例評論421〔判例時報1479〕203~207頁1994年3月1日/小宮文人・日本労働法学会誌83号170~177頁1994年5月/森井利和・労働法学研究会報53巻14号1~31頁2002年5月20日/大澤英雄、木下潮音・経営法曹110号111~124頁1995年9月/中村和 |
判決理由 | : | 〔労働時間-労働時間の概念-手待時間〕 一 労基法にいう労働時間とは、労働者が使用者の拘束下にある時間(いわゆる拘束時間)のうち休憩時間を除いた(同法三二条参照)時間、すなわち実労働時間をいう。そして、ここにいう休憩時間とは、就業規則等で休憩時間とされている時間を指すのではなく、現実に労働者が自由に利用できる時間を指す(同法三四条三項)。すなわち、現実に労務を提供している時間だけではなく、現実に労務に従事していなくても使用者の指揮監督下にある時間(いわゆる手待時間)であれば、たとえこれが就業規則等で休憩時間または仮眠時間とされているものであっても、なお労働時間に当たり、賃金支給の対象となるというべきである。 したがって、本件仮眠時間が労働時間に当たるかどうかを検討するにあたっては、これが原告らの自由に利用できる時間であるのか、それとも原告らが被告会社の指揮監督下にある時間であるのか、という観点からこれをなすべきである。具体的には、実作業から解放されているかどうか、また労働からの解放がどの程度保証されているか、場所的、時間的にどの程度解放されているか、といった点からも実質的に考察すべきである。〔中略〕 右二で認定した事実によると、まず、全てのビルにおいて、被告会社が従業員一名以上を配置して夜間に泊まり込みで設備の保守等に従事させることが管理請負契約の内容となっている。すなわち、原告らが本件仮眠時間中各ビルの仮眠室に待機していることそれ自体がすでに、被告会社が管理請負契約上の義務を履行するために行われているものであり、被告会社の業務の一環を成しているといえる。このことから、原告らは、警報や電話等に対し相当の対応をすることを職務として義務付けられており、本件仮眠時間中、労働からの解放は保証されていない。したがって、原告らは、本件仮眠時間中、被告会社の指揮監督の下に待機しているものといえる。 そして、本件仮眠時間中、原告ら従業員は、ビル外への外出を原則として禁止され、仮眠の場所も特定されており、警報への対処等を行わなければならず、このため、警報器や電話機から離れることもできないこと等を考慮すると、原告らが負っている場所的な制約は相当に強度なものがあるといえる。 以上の点に照らすと、本件仮眠時間は労働時間として扱われるべきものといわなければならず、このことは、本件仮眠時間中、結果的に警報が鳴る等しなかったため、原告らが何らの作業を行うことなく始終睡眠をとることができた場合でも変わりはないというべきである。 |