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ID番号 06162
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 東京電力事件
争点
事案概要  思想・信条を理由とする賃金査定上の差別取扱などが不法行為にあたるとされた事例。
参照法条 日本国憲法14条
労働基準法3条
民法709条
民法710条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額
裁判年月日 1993年8月24日
裁判所名 前橋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ワ) 313 
裁判結果 一部棄却・認容(控訴)
出典 労働民例集44巻4-5号567頁/時報1470号3頁/タイムズ829号68頁/労働判例635号22頁
審級関係
評釈論文 秋田成就・労働判例637号6~10頁1993年12月15日/西谷敏・労働法律旬報1348号6~25頁1994年11月25日/中山和久・判例評論424〔判例時報1488〕222~226頁1994年6月1日/飯野春正・前衛639号195~203頁1993年11月/脇田滋・民商法雑誌110巻1号122~131頁1994年4月
判決理由 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕
 1 被告会社の人事諸制度が個々の従業員に対する賃金等の処遇に格差を生ぜしめることを当然の予定としている制度であったとしても、それをもって、直ちに、原告らの賃金格差が職務遂行能力及び勤務成績による格差であると事実上推定すべきいわれはなく、このような推定をするかどうかは裁判所の自由な心証形成に委ねられるものである。
 2 ところで、原告らは、本訴において、賃金差別に基づく損害賠償として、原告らがそれぞれ同期同学歴者中の平均的能力を有すると目される従業員と同等の勤務成績を有していたことを前提として、原告らの主張する「平均賃金」に基づき算定した額を請求している。
 しかし、前述のとおり、原告らは、いずれもその職務遂行能力又は業績において、同期同学歴者中の平均的能力を有する従業員と同等の勤務成績を有していたと認めることができないのである。
 加えるに、仮に、原告らが主張するとおりの「平均賃金」に基づき原告らが賃金差額を受けることができるとすると、被告の主張2(一)(3)及び(4)のような不合理なことも生じかねないので、原告らの右算定方法による損害額の請求は認めることができない。
 また、前述のとおり、被告会社は、原告らに対し、それぞれ賃金差別査定を行っていた事実が認められるが、他方、弁論の全趣旨によれば、原告らが差別額として主張している額の全体が思想信条に基づく差別ではなく、右差別額の中には職務遂行能力及び業績に基づく査定の結果生じた部分も含まれているものと認められ、その結果、原告らが差別額として主張する額には、被告会社の差別行為に基づく部分と査定行為に基づく部分とが混在するのであり、そのうち、どの部分が差別行為によって生じた部分であるかを特定する必要があるところ、この点につき原告らの主張及び立証も尽くされておらず、結局、被告会社の差別行為に基づく原告らの給与上の損害額を正確に算定することは不可能と言わざるを得ない。
 3 以上によれば、本訴請求のうち、差別賃金相当分の損害賠償請求に関する部分については、その余の点について判断するまでもなく、これを認めることはできない。