ID番号 | : | 06168 |
事件名 | : | 異動命令無効確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | ケンウッド事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 同一部門における職場の変更を伴う異動命令をうけた三歳の幼児をかかえる女子職員が、通勤時間が長くなって幼児の保育ができないことなどを理由に長期間出勤しなかったことに対する出勤停止および懲戒解雇が有効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反 |
裁判年月日 | : | 1993年9月28日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和63年 (ワ) 6997 |
裁判結果 | : | 棄却(控訴) |
出典 | : | 時報1476号153頁/タイムズ831号280頁/労働判例635号11頁/労経速報1509号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 深谷信夫・法律時報66巻9号98~101頁1994年8月/深谷信夫・労働法律旬報1410号27~33頁1997年6月25日 |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕 以上の認定事実によると、原告は、本件異動命令発令当時、満三歳の長男を保育しながら夫とともに各別会社に勤務しており、長男の保育については、保育園に入園させており、この送りについては、水曜日は夫の勤務の都合上原告がなし、それ以外の日は夫がなし、迎えと原告が帰宅するまでの間は、月、火、木及び金曜日は、原告の元の同僚に依頼しているが、これも同人の勤務の関係で午後六時五〇分までであり、水曜日は、右保育園の保母に依頼し、さらに、同人に午後八時までの自宅での保育(含む夕食)を依頼しているというのである。このような原告の保育の状況からすれば、原告が八王子事業所に通勤するということとなれば、通勤時間は最短時間の中央線経由でも約一時間四三分を要し、このため、出勤は、自宅を午前七時一〇分ころに出なければならず、帰宅は、午後七時三五分ころとなるというのであるから、保育状況に変化がなく、現住居から通勤するという限りにおいては、水曜日に保育園に送ること、月、火、木及び金曜日の午後六時五〇分ころから原告が帰宅する同七時三五分ころまでの保育とができないこととなる。この限りにおいて、原告の主張にも首肯し得る点がないではないが、右の保育のできない時間帯につき、経済的負担を度外視するならば、さらに、第三者に依頼することが可能であったのではないかとの疑問があるし、後期認定のとおり、被告は、原告との間で、通勤時間及び保育問題等につき十分話し合ってできる限りの配慮をしようと考えていたというのであるから、いかなる場合にも現住居からの通勤が不可能であったなどということはできない。原告の主張する健康問題も、後述するとおり、この障害事由になるとは認められないし、二男の妊娠も、本件異動命令後のことであるから、この有効性の判断材料とはならない。 以上の点を別としても、原告が八王子事業所近辺に転居をすれば原告の主張する保育問題等は容易に解決することができたといえる。 原告は、転居のできない理由とし、現在の生活状況を変えることは非常な不利益を伴うからである等と主張及び供述するが、なるほど、転居に伴って多少の不利益の伴うことは否定し得ないが、原告の主張及び供述することは転居のできない客観的障害事由ということはできないし、転居先住居の点においても、また、保育園の転園の点においても容易に確保できたというのであるから、被告の従業員であるという立場からすれば、転居という方法によって本件異動命令に協力すべきであったといえる。 原告の供述する夫の通勤時間についても、居住地を八王子、豊田、日野、立川の各市に定めた場合、電車で約一時間(但し、居宅から乗車駅までの時間を含まない。)であるというのであるから、都内及びその周辺の昨今の住宅事情を考慮すれば、右の程度の通勤時間は、格別異を唱える事由とはいえず、これを理由に転居に反対するということは、原告の被告における従業員であるという立場に対する非協力的な態度であると評されても止むを得ない。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕 右認定したところによると、原告は、本件停職処分期間満了後も被告の二度に亘る出勤命令及びこれを無視した場合の懲戒処分の警告にもかかわらず、これを無視して出勤しなかったというのであり、原告のこの欠勤には正当な理由のないことは前述したところから明らかである。 そうすると、原告の右行為は、前記懲戒規定一六条二号、一二号に該当し、他に本件懲戒解雇処分が懲戒権を濫用してなされたことを認めるに足りる証拠もない。 |