ID番号 | : | 06204 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | ノースウエスト航空整備士事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 航空機の上級整備士が勤務中にシャンパンを飲んだこと、それを上司に報告せずに勤務を継続したこと、その件の調査のために自宅待機命令が出されたのに右命令を無視して就労したことを理由に解雇され、右解雇の効力を争うとともに、右一連の会社の行為が不法行為に当たるとして損害賠償を請求した事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法89条1項3号 民法1条3項 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇権の濫用 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 自宅待機命令・出勤停止命令 |
裁判年月日 | : | 1993年9月24日 |
裁判所名 | : | 千葉地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成3年 (ワ) 1155 |
裁判結果 | : | 一部認容(確定) |
出典 | : | タイムズ834号98頁/労働判例638号32頁/労経速報1517号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇権の濫用〕 〔労働契約-労働契約上の権利義務-自宅待機命令・出勤停止命令〕 被告は、その従業員に対して、アルコール飲料の影響を受けた状態で勤務を行うことを禁じていたことが認められ、それゆえ、従業員は、何らかの原因により勤務中にアルコール飲料の影響を受けた状態に陥った場合には、上司にその旨を報告して勤務の継続について指示を求めることが命じられていると解するのが相当である。 (二) 証拠(〈書証番号略〉及び原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件行為後、勤務時間終了時まで整備作業を継続し、その間、上司に対し、本件行為につき報告して整備作業の継続について指示を求めたことはなかったものと認められる。 しかしながら、本件行為が前記認定のとおりグラスのシャンパンを一回ごく少量すすった程度のものであることに、右証拠をあわせれば、原告は本件行為後アルコール飲料の影響を受けた状態にはなく、また、原告自身もアルコール飲料の影響を受けたとの認識を欠いていたと認められるから、原告の本件行為後の右行為は、就業規則二六条B項7号ないし2号に該当するものではないというべきである。〔中略〕 原告は、被告の就業規則及び労働協約上懲戒処分としての自宅待機の定めはない旨を主張するが、使用者が従業員に対し労務提供の待機を命じることは、当該従業員の労務の性質上就労することに特段の利益がある場合を除き、雇用契約上の一般的指揮監督権に基づく業務命令として許されると解されるところ、本件全証拠によっても、航空機の上級整備士という原告の職務に右特段の利益を認めることは困難であり、本件自宅待機命令は被告の業務命令と認められる。そして、業務命令としての自宅待機も正当な理由がない場合には裁量権の逸脱として違法となると解すべきところ、証拠(証人四戸)によれば、Aの前記レポートの内容は原告のNW〇〇七便内での行為が就業規則所定の懲戒事由に該当することを疑わせるに足りるものであり、被告が前記(一)認定の懸念を抱くこともやむを得ないと認められることに照らすと、本件自宅待機命令の発令には正当な理由があったものと認めることができる。 したがって、被告が原告に対し、一月一八日までに自宅待機を命じたことは、被告の裁量権の範囲内でされた適法なものと認められる。 (三) しかしながら、証拠(〈書証番号略〉及び証人四戸)によれば、二月下旬までには四戸は直接Aから事情聴取をしていること及び被告と組合間の団体交渉の過程で四月初旬までには、原告の弁解の核心がアルコールを含む飲料であることの認識を欠いていたことと右飲料を口にした態様・回数にあることが判明していたことが認めれる。これらの経緯には、証拠(証人四戸及び原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、被告が本件自宅待機命令を長期間継続した主たる目的が、原告がNW〇〇七便内で故意にシャンパンを二回飲んだという認定事実を前提にして、原告に任意の退職を求めることにあり、その間必要な事実調査を尽くさなかったと認められることをあわせ考えると、少なくとも原告が就労を開始した八月一一日の時点においてもなお被告が本件自宅待機命令を継続したことは、正当な理由を欠く違法なものといわざるを得ない。 (四) そうすると、原告が、八月一一日から三日間就労した行為は、違法な業務命令に従わなかった行為に過ぎず、これをもって就業規則二六条B項7号に該当するとは解することができない。 4 以上の検討によれば、本件行為、本件行為後整備作業を継続した行為及び八月一一日から三日間就労した行為は、いずれも解雇事由に該当せず、また、これらを総合しても解雇事由には該当しない。 そうすると、争点【2】(解雇権濫用)について判断するまでもなく、本件解雇は無効である。 |