全 情 報

ID番号 06214
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 阿倍野労基署長事件
争点
事案概要  労基署長が労災保険給付金額について誤って過大な給付金額を回答した結果、別件訴訟において損害賠償請求が棄却され、その損害額を国に請求したケースにつき、国家賠償法に基づく賠償が命ぜられた事例。
参照法条 国家賠償法1条1項
労働者災害補償保険法12条の4第2項
弁護士法23条の2第2項
体系項目 労災補償・労災保険 / 審査請求・行政訴訟 / 審査請求との関係、国家賠償法
裁判年月日 1993年10月29日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成3年 (ワ) 9599 
裁判結果 一部認容,一部棄却(確定)
出典 時報1499号92頁/タイムズ871号207頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-審査請求・行政訴訟-審査請求との関係、国家賠償法〕
 (三) (別件判決について)
 次に、別件判決による因果関係への影響の有無について検討する。
 (1) 労災保険給付と民事損害賠償との関係について、労働基準法八四条二項、労災保険法一二条の四、六七条に規定されている「同一の事由」の意義は、労災保険給付の対象となる損害と民事上の損害賠償の対象となる損害とが同性質であり、保険給付と民事上の損害賠償とが相互補完性を有する関係にある場合をいうものと解すべきであり、消極損害についての労災保険給付は、民事上の損害賠償の際に、そのうちの精神的損害及び積極損害を控除の対象にしないとするのが最高裁判所の判例である。
 (2) ところで、《証拠略》によれば、別件判決は、A自身の損害として、治療費一四五万六八四四円、入院雑費九万四八〇〇円、入院付添費三五万五五〇〇円、休業損害三一一万一〇七三円、後遺障害による逸失利益七二万五九八二円、死亡による逸失利益二七三九万三二九一円、死亡までの慰謝料二〇〇万円、死亡慰謝料六〇〇万円を、原告固有の損害として、葬儀費用四〇万円、慰謝料五〇〇万円をそれぞれ認定したうえで、Aの死亡による逸失利益及び死亡慰謝料並びに原告の葬儀費用及び慰謝料について、寄与度により五〇パーセントの減額を施し、さらに、右損害額から、過失相殺として二〇パーセントを減じたこと、そして、Aの過失相殺後の損害額から自賠責保険等の給付合計額一一八九万四八五九円を控除し、残額七六五万七八一六円のうちの原告の法定相続分と、前記の原告固有の損害(二一六万円)の合計額五九八万八九〇八円を、全額損益相殺の対象として、結局、障害補償年金差額一時金六〇八万五一三二円の支払により、原告の損害賠償請求権の残額は存しないものと判断したことが認められる。
 そうすると、別件判決では、治療費、入院雑費、入院付添費、葬儀費用の各積極損害及び精神的損害(慰謝料)との関係でも控除したため、最高裁判所の前記判例とその立場を異にするものであることが明らかである。
 (3) しかしながら、労災保険給付を控除する前の原告の損害額として、別件判決で認定された金額は五九八万八九〇九円であるから、阿倍野労基署長の前記過失行為がなければ、労災保険給付による填補の客観的範囲について別件判決の前記見解に立って、真の給付額である二三四万五五四〇円を、消極損害のみならず、積極損害及び精神的損害から控除しても、なお、原告の請求棄却という結果は生じなかったことは明らかである。
 (4) そして、損益相殺における法的判断として、別件判決における処理がその控訴審等で是正される余地があったとはいえ、原告に対する不法行為を構成すべき違法性を帯有するものであるとまではいえず、法律見解についての相違に過ぎないところである。したがって、最高裁判所の判例に異なる別件判決の右法律判断が混入したとはいえ、これが阿倍野労基署長の前記過失行為と右結果との間の因果関係の存否について、どの程度の影響を及ぼしたかの点を検討してみるに、右判決が原告の損害についての直近の原因ではあるものの、その前段において、本件回答における過誤が存し、これがなければ、別件判決の内容も妥当性を有することができたといえるので、これらを通じて勘案すれば、なお、本件回答と右損失結果との間の因果関係を肯認すべきである。