全 情 報

ID番号 06217
事件名 仮処分申立事件
いわゆる事件名 観智院事件
争点
事案概要  寺院の境内に居住し拝観事業等に従事し、給与を受けていた者が「解雇」されたため、寺院との間に雇用契約があったとして地位保全の仮処分を求めた事例。
参照法条 労働基準法2章
民法623条1項
民法1条3項
体系項目 労働契約(民事) / 成立
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1993年11月15日
裁判所名 京都地
裁判形式 決定
事件番号 平成5年 (ヨ) 809 
裁判結果 却下
出典 労経速報1514号8頁/労働判例647号69頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-成立〕
 債務者の住職兼代表役員であったAの死亡により、Bが昭和五一年五月六日に債務者の代表役員(住職)に就任したこと、Bが債務者の代表役員兼住職に就任以降、C院の拝観業務が開始されたこと、債権者らは債務者の経理事務を含む寺院の維持管理業務及び拝観業務に従事してきたものであること及び昭和五七年から債権者らに対し、所得税を源泉徴収のうえ給料として金員が支払われてきていることが一応認められる。
 これらの事実を総合すれば、債権者らと債務者との間に雇用契約があったことが推認できる。
〔解雇-解雇権の濫用〕
 C院は今後D寺長者ないしD寺で重要な地位にある者の単なる住坊に戻るわけではなく、教師養成の道場として使用され、しかも(証拠略)によると右道場は「D寺E学院」というかなり組織だったものになることが一応認められるところ、債務者が右道場の場所として、C院の建物を提供するだけであれば、債務者として何らの事業を行うわけではなく、債権者らを雇用する余地はないといわざるをえないが、債務者が右道場の運営にかかわる場合には、むしろその事業内容の転換といえ、配置転換等の方法を債務者としては考慮すべきところではある。しかし(証拠略)によると、予定される教師育成の道場の入学者数は少なく、そのため教授への謝礼もでない事態が予想されていることなどから、右道場において、債権者らを配置転換のうえ雇用する余地はないことが一応認められる。
 以上のとおり、C院の拝観業務の終了はその目的において不当とはいえないこと、右拝観業務終了後、債務者において債権者らを雇用しうる余地はないこと、本件は債務者に雇用されていた全従業員が解雇の対象となっていることから人選の合理性などは問題とならないことなどに鑑みれば、本件債務者による解雇は解雇権の濫用とはいえないと解される。