全 情 報

ID番号 06223
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 東京国際郵便局事件
争点
事案概要  東京国際郵便局の外国郵便課に勤務する職員が、所属する組合が計画した庶務会計課への要請行動に参加するため午後一時間の年休の時季指定をしたのに対して、各所属課長が時季変更権を行使し勤務を命じたところ欠務したため、賃金カットと訓告処分を受け、それを違法としてカットされた賃金、付加金等を求めた事例。
参照法条 労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 時季変更権
年休(民事) / 年休の自由利用(利用目的) / 一斉休暇闘争・スト参加
裁判年月日 1993年12月8日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和62年 (行ウ) 51 
裁判結果 一部認容(確定)
出典 タイムズ844号130頁/訟務月報40巻12号2986頁/労働判例640号15頁/労経速報1521号3頁
審級関係
評釈論文 青野覚・季刊労働法172号179~181頁1994年11月
判決理由 〔年休-時季変更権〕
 以上(1)ないし(6)の事実によれば、第一外国課到着担務においては、一〇月二九日午後の時点で、翌三〇日に臨時のニューヨーク便が到着するなどの予定があり、未処理郵便物数を大幅に減らすことが困難な状況が予測されたが、到着担務の一日の処理能力からすれば、同日は、平均的な未処理郵便物数が繰り越されることが予測されるにすぎず、代替勤務者を確保したり、あるいは時間外勤務を命じたりしなければならない事態が予想されたわけではなく、原告X1のした同日午後二時三〇分から同三時三〇分までの一時間の年休時季指定により当日午後の定時に発着係に交付するための郵袋の納入・作成に支障が生じる恐れがあったとはいえない状況であったものというべきである。それ故、A課長は、現実にも、B主任の一日年休、Cの突発的な一時間年休に対し、いずれも時季変更権を行使する必要を認めなかったものということができる。
 したがって、原告X1の本件年休時季指定により第一外国課の業務の正常な運営に支障があるとはいえなかったものであり、A課長のした時季変更権の行使は、その要件を欠き、無効というべきである。〔中略〕
 以上(1)ないし(6)の事実によれば、第一外国課差立担務においては、一〇月二九日午後三時過ぎの時点では、要処理物数は少なくとも約五万通(うち約二万通はクリスマスメール)程度となることが見込まれたため、翌三〇日朝の段階においても約五〇〇〇通程度の未処理郵便物が生じることが予測されたが、これは一六時間勤務帯で生じる滞貨であって、その量からみて同勤務明けの者によって処理されるべきものであり、原告X2の勤務指定である中勤の業務については、二九日において未処理郵便物が生じていたわけではなく、翌三〇日に日勤の未処理郵便物が生じる予測が立てられたものではなかったから、原告X2のした同日午後二時三〇分から同三時三〇分までの一時間の年休時季指定により代替勤務者を確保したり、あるいは時間外勤務を命じたりしなければならない事態が予想された状況ではなかったものというべきである。
 したがって、原告X2の本件年休時季指定により第一外国課の業務の正常な運営に支障があるとはいえなかったものであり、A課長のした時季変更権の行使は、その要件を欠き、無効というべきである。〔中略〕
 以上によれば、原告らの時季指定どおり年休を与えると、年休を取得した原告らを含む職員が部外者とともに多数で局舎内に乱入し、同局の庶会課に押し掛け、同課の職場秩序が乱され、正常な業務遂行を阻害することが十分に予測されたものであり、事業の正常な運営が妨げられる場合に該当するものであるとしてされた本件時季変更権の行使は、その要件を欠き、無効というべきである。
〔年休-年休の自由利用(利用目的)-一斉休暇闘争・スト参加〕
 年休の利用目的は労働基準法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である、とするのが法の趣旨である(最高裁判所昭和四八年三月二日第二小法廷判決・民集二七巻二号一九一頁)。したがって、労働者が年休を取得した当該日をどのように利用し、当該日にどのような行動をするかによって時季変更権を行使できるかどうかが定まるのではなく、当該労働者の所属する事業場を基準として、当該労働者の年休取得日の労働が業務の運営にとって不可欠かどうか、すなわち、年休を取得して労務の提供をしないこと自体によって事業の正常な運営を妨げることとなるかどうかによって決すべきものである。しかし、年休の時季指定が、労働者において、休暇届を提出して職場を放棄・離脱したうえ、自己の所属する事業場に正当な理由なく滞留するなどして専ら事業の正常な運営を阻害することを目的とするためにある等特段の事情がある場合、それは年休に名を藉りて違法な業務妨害をすることを目的とするものであるということができるから、年休権行使の濫用として許されないものというべきである。