ID番号 | : | 06227 |
事件名 | : | 休業補償不支給処分取消等請求控訴事件/療養補償不支給処分取消請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 新宿労基署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 療養補償給付および休業補償給付の支給を受けていた者に対して労働基準監督署長が治癒を理由として不支給処分を行ったのに対して、労災保険における「はり・きゅう」の施術期間を一定範囲に限定する取扱いの可否を含めてその効力が争われた事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法13条 労働者災害補償保険法12条の8第1項1号 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 療養補償(給付) |
裁判年月日 | : | 1993年12月21日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成3年 (行コ) 2 平成3年 (行コ) 3 |
裁判結果 | : | 一部変更,一部控訴棄却(確定) |
出典 | : | 労働民例集44巻6号835頁/時報1514号143頁/訟務月報41巻3号349頁/労働判例646号14頁 |
審級関係 | : | 一審/東京地/平 2.12.27/昭和61年(行ウ)30号 |
評釈論文 | : | 松本光一郎・判例タイムズ913号342~343頁1996年9月25日 |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-療養補償(給付)〕 業務災害に関する療養、休業保険給付は、労働基準法七五条、七六条に規定する事由が生じた場合に補償を受けるべき労働者の請求に基づいて行われる(労災保険法一二条の八)ところ、右請求は、被災労働者が使用される事業所を管轄する労基署長に対し、請求を裏付けるに足りる所定の事項を記載した請求書に、これを証明することができる書面を添付してしなければならないとされている(同法施行規則一二条一項、二項、一二条の二第一ないし第三項、一三条一項、二項)のであるから、療養補償ないし休業補償給付を受給しようとする被災労働者は、右請求にかかる給付について自己に受給資格のあることを証明する責任があると解するのが相当である。したがって、右被災労働者が療養給付又は療養補償給付請求をするには、「業務上負傷し、又は疾病にかかったこと」、「療養が必要であること」(労働基準法七五条)、即ち、当該治療等が医学的見地からみて当該疾病の療養として必要なものであること(労災保険法一三条二項参照)を、休業補償給付請求をするには、「必要な療養のため、労働することができないこと」(労働基準法七六条)を証明しなければならない。また右被災労働者は、療養補償ないし休業補償給付決定を受けた場合でも、その後の請求に際しても右受給要件を証明しなければならないから、労基署長が当該請求に対して「治癒」を理由として不支給決定をする場合、処分権者の側で「請求者の傷病が治癒したこと」を証明しなければならないと解すべきではない。〔中略〕 労災保険法一三条二項かっこ書きの「政府が必要と認めるもの」の範囲については、「療養上相当と認められるもの」と解する(甲第二七号証)のが相当であるから、具体的には医学的にみて個々の傷病につき身体機能の回復、補填を図るために必要な療養か否かによって判断すべきであって、政府が自由にその範囲を定めうるものではないと解される。 三七五通達では、はり・きゅう治療に関する労災保険の支給対象として、単独施術(業務上等による疾病の症状が固定した場合における後遺症状に対する治療)と併行施術(一般医療とはり・きゅう治療を併せて行うことにより運動機能等の回復が期待しうる場合の治療)が認められており、はり・きゅう治療の施術期間は一二か月と定められているが、同期間が初療の日から一二か月を経過した場合の取扱いについて明確な記載がなく、また単独施術と併行施術の取扱いの差異についても具体的な記載はない。 しかし、労災保険法一三条二項の前記趣旨に鑑みると、はり・きゅうの施術期間が一二か月を経過した場合には以後療養の対象としないという右の取扱いは、行政庁の内部準則として保険給付の一般的、原則的な処理方針を定めたものにすぎないから、一二か月を経過してもなお治癒に至らない特段の事情のある場合には、医学上必要な療養として更に継続の必要があるか否かをそれぞれの症例に応じ個別的に審査することが必要となると解される。事務連絡第三〇号はこのような場合の対処方針の一端を定めたものと理解することができる。 ところで、一般医療とはり・きゅう治療の併行施術が行われている場合、前記のとおりはり・きゅう治療の右施術期間内に原疾患について治療効果が期待できないと医学的に認められたものについては、その後一二か月間は単独施術としてはり・きゅう治療に関する労災保険給付を継続して受けられる余地がある(事務連絡第三〇号2(1)【2】ロ参照)が、右認定がなされなければ、一般医療と併行して行われているはり・きゅう治療に関する労災保険給付が当然に打ち切られると解するのは、併行施術から単独施術に移行する場合に比べて均衡を失することになり、成立に争いのない乙第五一号証、証人田中守の証言によれば、はり・きゅう治療には一般医療の治療効果を高めるという効果が認められているのであるから、かかる場合には一般医療の継続の要否の中で、はり・きゅう治療の必要性も判断すべきであると解するのが、労災保険法及び三七五通達の趣旨に沿うものである。 |