ID番号 | : | 06232 |
事件名 | : | 地位保全・金員支払仮処分命令申立事件 |
いわゆる事件名 | : | 日本周遊観光バス事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | パチンコをしていて運転業務に従事しなかったことを理由とする諭旨解雇につき、既に処分を受けており二重処分になるので許されないとされた事例。 同僚とのけんか、人身事故があったことを理由とする諭旨解雇につき、懲戒事由に当たるとはいえないとされた事例。 外国人旅行客に付き添っていた添乗員にチップを強要したことは、会社の名誉・信用を失堕させる行為に当たるが、これを理由とする諭旨解雇は解雇権を濫用したもので無効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 民法1条3項 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 風紀紊乱 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤 懲戒・懲戒解雇 / 二重処分 |
裁判年月日 | : | 1993年12月24日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成4年 (ヨ) 4498 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労経速報1517号20頁/労働判例648号35頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕 諭旨解雇処分は、労働者の雇用関係を消滅させてしまうものであって、使用者が労働者に対して行う懲戒処分の中でも、懲戒解雇処分に次いで重いものであるから、労働者が規律違反をしたと認められる場合であっても、右規律違反の種類・程度その他の事情に照らして、解雇を相当とするような場合でなければ諭旨解雇処分は許されないというべきであり、仮に、使用者が右相当性を逸脱して労働者を諭旨解雇処分にしたときは、当該解雇は、解雇権を濫用したものとして無効であるというべきである。 〔懲戒・懲戒解雇-二重処分〕 (1)の事実は、形式的には、就業規則一〇九条の四号(所属長の許可なく濫りに長時間職場を離れたとき)に該当するといえるが、債権者は、右事実に基づいて、既に、出勤停止五日間の処分を受けており、これを解雇事由とすることは、二重処分となり、社会通念上、許さないというべきである。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-風紀紊乱〕 次に、(2)及び(4)の事実は、就業時間中の職場内における同僚同士の喧嘩であり、同条の一四号(会社の風紀を害し又は秩序を乱したとき)に該当すると認められる。しかしながら、右(2)の事実については、直後において、債権者と伊藤とも何らの処分もされず、後日、債務者会社社長が両者の間に入り、両者を和解させ、解決済みの問題であること、また、(4)の事実については、暴行を振るったのは、債権者ではなく、小野のほうであることからいって、右(2)及び(4)の事実を解雇事由とすることは、社会通念上、許されないというべきである。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕 (8)の事実については、就業規則一〇九条のうち該当性が問題となるのは、八号(職務怠慢により事故を発生させ業務に阻害をきたしたとき)であるが、前記認定によれば、債権者には、前方不注視の過失があったことが推認され、債権者に、「職務怠慢」があったことは認められるものの、本件全疎明資料によるも、右交通事故により債務者が業務に阻害をきたしたとの疎明はないから、同号に該当するとは認められない。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕 (11)の事実については、添乗員に対してチップを強要して、台湾からの旅行客に対し、「ケチである。」と大声で言ったことからして、一号(会社の名誉、信用を失墜せしめる行為をしたとき)に該当するものと認められる。そして、前記認定事実によれば、債権者は、同僚ともトラブルを起こしやすく、弱い立場にあるガイドに対し叱りつけたり、あるいは、荷物のバスへの積み卸しにつきガイドや添乗員を全く手伝わないなどの事実も認められ、観光客に対する十分なサービス精神や接客マナーが要請される観光バス会社の運転手としては適格性を欠く面が身受けられ、前記のように、債権者が添乗員に対してチップを強要して、台湾からの旅行客に対し、「ケチである。」と大声で言ったことを捉え、債務者が、債権者を諭旨解雇処分にしたことも、あながち理由のないことではない。 しかしながら、他方、疎明資料によれば、債務者会社の就業規則一〇七条においては、懲戒処分(制裁措置)として、諭旨解雇及び懲戒解雇以外に、「譴責(始末書をとり将来をいましめる。)」、「減給(始末書をとり、一回につき平均賃金の半日分、又は当該賃金支払期間の賃金総額の一〇分の一を超えない範囲において減給する。)」「出勤停止(始末書をとり一〇日以内の出勤停止とする。なお、期間中の賃金を支払わない。)」「停職(三か月以内の期間を定めて停職し、その期間中給与の全額又は一部を支給しない。)」等の処置が定められていることが認められ(〈証拠略〉)、本件において、債権者に認められる規律違反行為は、前記認定の程度のものであり、右規律違反行為の態様等を考慮すると、債権者に対し、譴責、あるいは場合によって、減給、出勤停止又は停職の処分をするのは格別、債権者を諭旨解雇処分とすることは、重きに失し、社会通念上、相当であるとは認められないというべきである。 以上によれば、本件解雇処分は、債権者主張のその余の点(予告手当て不支給、解雇の手続き違反や不当労働行為の主張等)を判断するまでもなく、解雇権を濫用したものであり、無効であるというべきである。 |