全 情 報

ID番号 06235
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 エールフランス事件
争点
事案概要  Y1会社成田空港支店に勤務する労働者が、同人に退職を強要するため職場で暴力行為、いやがらせ行為がなされ、それが不法行為に当たるとして、会社に損害賠償を請求した事例。
参照法条 民法709条
民法715条1項
民法719条1項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 1994年1月26日
裁判所名 千葉地
裁判形式 判決
事件番号 平成3年 (ワ) 314 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 タイムズ839号260頁/労働判例647号11頁/労経速報1531号7頁
審級関係
評釈論文 原啓一郎・平成6年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊882〕340~341頁1995年9月/藤原稔弘・季刊労働法173号154~156頁1995年3月15日
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 右のとおり、職務内容変更に合理的理由がないことと、原告が統計作業に従事させられるようになった経過(前記四3)を合わせ考慮すれば、右職務内容の変更は、原告を退職に追い込むという不当な動機、目的の下に行われた仕事差別であると推認することができ、これにより原告は、約七か月間(統計作業を命じられてから本件口頭弁論終結までの期間としては約一一年間)にわたり、有用性に疑問のある統計作業に従事させられた。
 したがって、右職務内容の変更は、管理職である被告Y2が旅客課において命じたものであるところ、これは労務指揮に名を借りて、原告が仕事を通じて自己の精神的・肉体的能力を発展させ、ひいては人格を発展させる重要な可能性を奪うものであり、かつ、原告にことさら屈辱感を与え、原告の仕事に対する誇りと名誉等の人格権を侵害した違法な行為として、暴力行為等とは別の不法行為を構成するものというべきである。〔中略〕
 被告Y2ら四名は、前記五1認定のとおり、本件期間中、原告に対してそれぞれ暴力行為等を加えた。そのうち(1)ないし(33)の事実については、前記五2(一)のとおり、全体として一つの違法行為ということができるから、これについて不法行為が成立し、右四名は、民法七一九条一項前段に基づき共同不法行為責任を負担する。
 これに対して被告らは、これらの事件ないし事実は、その都度の経緯や事情ないし原因があって惹起ないし発生したものであり、組織的系統的なものではなく、また、それぞれの実行行為者が異なり、時間、場所、行為も異なるから継続的な一個の不法行為とはいえない旨主張する。
 確かに各暴力行為等の実行行為者はその都度異なるし、また、各事件ないし事実の直接のきっかけも同じではない。しかしながら、本件暴力行為等の大半は勤務時間中に旅客課事務所内で行われたものであるし、また五2(一)(1)のとおり、いずれも、昭和五六年ころ被告会社の職員が原告を退職に追い込む目的で暴力行為を加えるなどした背景の下に、しかも、被告Y2ら四名が明示又は黙示の共謀の下に、あるいはそれを察した被告会社職員が行ったものであるから、それぞれ実行行為者及びきっかけが異なるとしても、各々別個の不法行為が成立するのではなく、全体として一個の不法行為が成立すると解される。
 2 被告Y3の責任
 前記七のとおり、被告Y3は、少なくとも仕事差別を知り得たのであり、それにもかかわらず、何ら対処しなかったことは、同人の成田空港支店長たる立場に照らせば違法ということができ、この点についてのみ民法七〇九条の不法行為が成立する。
 3 被告会社の責任
 (一) 暴力行為について
 前記七2のとおり、被告Y2ら四名をはじめとする被告会社職員が原告に対して行った暴力行為等は、被告会社が積極的に行わせ、あるいは被告会社においてこれを知りまたは知り得る状況にあったにもかかわらず放置したものとは認められないから、被告会社に民法四一五条の債務不履行責任または同法七〇九条の不法行為責任は生じない。
 しかしながら、前記のとおり、被告Y2ら四名及び原告に暴力行為等を加えたその他の被告会社職員には民法七〇九条の不法行為が成立し、それらの暴力行為等は、就業時間中に、就業場所で行われたものであるから、被告Y2ら四名及びその他の被告会社職員がその職務を行うにつき行ったものということができ、被告会社は民法七一五条一項の使用者責任を負担する。
 (二) 仕事差別について
 前記七2のとおり、統計作業は被告会社が積極的に行わせ、あるいは被告会社においてそれを知りまたは知り得る状況にあったにもかかわらず放置したものとは認められないから、被告会社に民法七〇九条の不法行為責任は生じない。
 しかしながら、前記六1及び七3(二)のとおり、統計作業は、被告Y2が原告に指示して行わせ、また、被告Y3はこれを少なくとも知り得たのであるから、右両名に民法七〇九条の不法行為が成立し、また、右統計作業の指示は被告会社の業務として行われたものであるから、被告会社は民法七一五条一項の使用者責任を負担する。
 4 被告ら相互の責任関係
 右のとおりであるから、暴力行為等については、被告Y2ら四名は民法七一九条一項前段に基づいて連帯して損害賠償責任を負い、また、被告会社の責任は民法七一五条一項の使用者責任であり、使用者は被用者と連帯して責任を負うから、結局、被告Y2ら四名と被告会社が連帯して損害賠償責任を負担する。
 仕事差別については、被告会社の責任は、被告Y3及び同Y2の不法行為責任についての使用者責任であるから、被告会社と同Y3は連帯して損害賠償責任を負担する。