全 情 報

ID番号 06239
事件名 労災保険不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 天満労基署長(近畿保安警備)事件
争点
事案概要  学校の警備業務に従事中の警備員の左脳内出血による死亡につき、業務災害に当たらないとした労基署長の不支給処分が争われた事例。
参照法条 労働者災害補償保険法12条の8
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等
裁判年月日 1994年1月31日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (行ウ) 27 
裁判結果 棄却
出典 労働判例649号34頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 労災保険法に基づく遺族補償給付、葬祭料の支給がされるためには、労働者が業務上死亡すること、すなわち、その死亡が業務に起因する(以下「業務起因性」という。)と認められることが必要であり(労災保険法一二条の八、労働基準法七九条、同法八〇条)、この業務起因性が認められるためには、単に死亡結果が業務の遂行中に生じたとか、あるいは死亡と業務との間に条件的因果関係があるというだけでは足りず、これらの間にいわゆる相当因果関係が存在することが認められなければならない(最高裁昭和五一年(行ツ)第一一号同五一年一一月一二日第二小法廷判決・裁判集民事一一九号一八九頁参照)。
〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕
 脳出血を発症させる原因としては、高血圧症及びこれに付随する動脈硬化症などによる脳の血管の変化が最も多く関与するものであり、これらを促進させ、あるいは発症の契機となるなどこれに影響を与える要因として、加齢、遺伝、肥満、喫煙、飲酒、糖尿病、精神的心理的ストレス、身体的負荷、寒冷、食塩の摂取などが指摘されており、これらの要因の幾つかが複合し、あるいは相互に影響しあって脳出血を発症させることが多いことが認められる。〔中略〕
 亡Aの本件左脳内出血は、高血圧症、肥満、高脂血症と加齢により進行した脳動脈壊死が破綻して発症したものと認められる。そして、右の事実及び証拠を総合すれば、同人は、右発症の約一か月前である昭和五六年二月初めころには、既にその高血圧症、脳動脈硬化と脳動脈の壊死が相当程度進行していたことが推認され、その後の右症状の自然経過のみによっても同年三月八日の本件左脳内出血が発症したとしても不自然とはいえないような症状であったものと推認される。
 2 すすんで、昭和五六年二月初めころまでの同人の業務について検討するに、前記認定の事実によれば、同人の勤務は、拘束時間が長く、勤務時間の相当部分が夜間であったことが認められるものの、業務の中心となる作業の内容は、校内の各部屋の施錠、開錠、校内巡視、電話の応対、警備日誌の記入、警報装置の作動開始、解除、鍵の受渡し等であってそれ自体は軽作業といえるものであり、作業時間自体も短いこと、同人は、同校に約五年間勤務しており、その業務内容に習熟し、労働環境にも慣れていたこと、同人は、各勤務日において、最終巡視の終わる午後一〇時ころから翌朝の巡視を行う午前六時までの間、特になすべき業務はなく、少なくとも、午後一〇時三〇分ころから翌日の午前五時三〇分ころまで約七時間程度の仮眠を取ることが可能であり、また、午前八時三〇分までの勤務時間を終え帰宅した後、平日午後四時三〇分の勤務開始までの間に自宅で睡眠を取ることが可能であり、同人は在宅時間中に必要に応じて睡眠を取っていたこと、同人の前記のような業務は、それ自体常に強度の緊張を強いられるものとは認められないこと、同人は、生徒や教職員とも良好な人間関係を築いており、このような人間関係から精神的緊張を受けたことも認められず、ほかに同人が特別に緊張を強いられたような事由も認められないこと、訴外会社に雇用され同人と同様の業務に従事していた警備員の約七割が六〇才前後の者であり、短期間で退職する者もほとんどなかったことからしても、右勤務が四九才の原告にとって過重であったとは考え難いことが認められ、以上の事実を総合すると、同人の業務内容は、同人の前記のような基礎疾患を自然的経過を超えて増悪させるほどの肉体的な疲労や精神的緊張をもたらすものであったとは認めることはできず、ほかに右の事実を認めるに足りる証拠はない。
 したがって、昭和五六年二月初めころまでの間に同人の業務が右基礎疾患を自然的経過を超えて増悪させたものということはできない。