ID番号 | : | 06253 |
事件名 | : | 遺族補償費等不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 尼崎労基署長(交安タクシー)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 高血圧症の基礎疾病を有するタクシー運転手が運転業務中に脳出血で死亡したことにつき、遺族が右死亡を業務災害に当たらないとした労基署長の不支給処分を争った事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法1条 労働者災害補償保険法12条の8第1項 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 |
裁判年月日 | : | 1994年3月11日 |
裁判所名 | : | 神戸地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成2年 (行ウ) 7 |
裁判結果 | : | 認容(控訴) |
出典 | : | タイムズ851号219頁/労働判例657号77頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕 被災労働者の遺族に対して労災保険法上の保険給付が行われるのは、「労働者が業務上死亡した場合」であり(労災保険法一二条の八第二項、労働基準法七九条、八〇条)、「労働者が業務上死亡した場合」とは、労働者が業務により負傷し、又は疾病にかかり、右負傷又は疾病により死亡した場合をいい、業務により疾病にかかったというためには、疾病と業務との間に相当因果関係がある場合でなければならない。 そして、右の相当因果関係があるというためには、必ずしも業務の遂行が疾病発症の唯一の原因であることを要するものではなく、当該被災労働者が有していた既存の疾病(基礎疾病)が条件または原因となっている場合でも、業務の遂行が右基礎疾病を自然的経過を超えて増悪させた結果、より重篤な疾病を発症させて死亡の時期を早める等、業務の遂行がその基礎疾病と共働原因となって死の結果を招いたものと認められる場合には、相当因果関係が肯定されると解するのが相当である。 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 前記認定事実によれば、本件は、高血圧症の基礎疾病を有していたものの、さほど重篤なものとはいえず、しかも昭和五九年一一月始めころには、投薬治療の必要はないとして、生活指導を受けたのに止まるAが、酒、煙草等も嗜まないのに、その後四か月も経ない間に脳出血を発症したものであるところ、前記のとおり右発症前の業務がAにとって過重であったことを考慮すると、Aがその基礎疾病の自然的経過によって脳出血を発症したものとは考え難い。むしろ隔日勤務に変わってから本件発症日までのAにとって過重な業務が、Aの基礎疾病を自然的経過を超えて増悪させ、そのために、脳内小動脈瘤が血圧に耐えられなくなって脳出血が発症し、Aを死亡させるに至ったものと認めるのが相当である。 なお、被告は、Aは肥満及び糖尿病(疑い)等の危険因子をも有しており、これらの事情を勘案すれば、Aの高血圧症は、自然的経過を超えて増悪したとはいえないと主張するが、Aの肥満及び糖尿病(疑い)は重篤なものではないうえ(〈書証番号略〉)、肥満や糖尿病は脳梗塞の危険因子ではあるが、高血圧性脳出血の危険因子にはならないという疫学的な調査結果の報告もあることは前記認定のとおりであるから、右の肥満や糖尿病(疑い)があるからといって、直ちにAの本件発症が、その基礎疾患の自然的経過によって生じたものということはできず、右主張は採用し得ない。 以上によれば、本件発症はAの基礎疾患と業務が共働原因となって生じたものということができるから、本件発症には業務起因性があり、Aの死亡は、業務と相当因果関係があるものと認めるのが相当である。 |