全 情 報

ID番号 06263
事件名 雇用関係存続確認等請求事件
いわゆる事件名 陽気会事件
争点
事案概要  社会福祉施設の指導員に対する経歴詐称および火災の際の不適切な救済活動を理由とする懲戒解雇につき、懲戒権、解雇権の濫用に当たり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法24条1項
労働基準法89条1項1号
民法536条2項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 無効な解雇と賃金請求権
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 経歴詐称
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務能力
裁判年月日 1994年3月25日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 平成2年 (ワ) 372 
裁判結果 認容
出典 労働判例654号50頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-経歴詐称〕
 4 以上によれば、その原因となった事実についての認識が原告とA会とで多少異なる点があるにしても、何れにしても、被告は、原告を再雇用した当時、原告がA会在職中に施設長を辞任したり、停職処分を受けた事実及びその原因となった事実の大要並びに高校中退の事実を知っていたといえるので、原告が被告に再雇用される際に提出した履歴書に、これらの事実を記載しなかったとしても、これをもって就業規則四七条四号所定の懲戒解雇事由である「重要な経歴をいつわり採用されたとき」(〈証拠略〉)に該当する事実が存在したということはできない。
 5 また、被告が本件処分の理由としているA会発行の勤務証明書を改ざんしたとの点についても、前記のとおり被告の代表者であるBが停職処分を受けた事実を知っており、その必要性があったとは考え難いのに、原告がコピーからでも改ざんの跡が容易に窺われるような杜撰な方法で(〈証拠略〉)改ざんしたとするのはいかにも不自然であり、原告が改ざんしたという事実自体を認めるに足りる十分な証拠があるとはいえない。
 そして、仮に改ざんをしたのが原告であるとしても、原告はその事実について起訴されてもいないのであるから、就業規則四七条三号所定の懲戒解雇事由である「刑事事件に関し有罪の判決を受けたとき」(〈証拠略〉)に該当する事実があったということはできず、また、被告代表者のBが停職処分を知っていたのであるから、右改ざんの事実をもって、直ちに就業規則四七条八号所定の「その他前各号に準ずる程度の不都合な行為を行ったとき」に該当する事由があると認めるのも相当でない。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務能力〕
 (二) さらに、被告は、原告が救助活動を行っていないのにこれを行ったかの如く虚偽の事実を申告し、本件火災に対する責任の所在の解明への協力や反省すら行うことなかったとして、本訴においてはこれを問題視し、最終的には、これをもって本件処分の最大の理由と位置づけるようであるが、前記認定のとおり、原告は、本件火災の際に一定の救助活動を行ったものと認めるのが相当であるから、被告の右主張は失当である。
 なお、被告は、原告において、Bが保険金目当てに消防署への通報を故意に遅らせた等、被告の信用を著しく害するような虚偽の事実をその後流布したと主張し、本訴においては、この点をも本件処分の理由に加えたいとするようであるが、いずれにしても、本件火災のように発生直後からその原因の解明や責任の所在を巡り様々な紛争が生じ、かつ、原告自身の責任も被告らから追及されている状況下で、仮に原告が被告側の責任を追及するような発言等を行ったとしても、これを一方的に非難して、懲戒解雇をすることは相当でないというべきである。〔中略〕
 また、その他の被告主張の本件処分理由についても、いずれもその根拠を欠くことは前記判示のとおりであり、本件火災時の原告の行動に多少非難されるべき点があったとしても、前示の本件全事情を総合勘案すれば、いずれにしても、本件処分は、懲戒解雇の根拠を欠き、懲戒権、解雇権の濫用として無効というべきである。
〔賃金-賃金請求権の発生-無効な解雇と賃金請求権〕
 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、本件処分は無効であるから、原告と被告間には、なお雇用契約が存続しており、原告は、右雇用契約に基づき、被告に対し、少なくとも本件処分当時の賃金を引き続き請求できるものというべきであるから、雇用契約の存在確認及び賃金の支払を求める原告の本訴請求は理由がある。