ID番号 | : | 06266 |
事件名 | : | 損害賠償等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 長野東電事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 電力会社の従業員が、共産党員ないしその支持者であることを理由として会社から賃金につき差別を受けたとして、同学歴・同期入社の従業員らの平均賃金との間に生じた賃金差額相当額につき、損害賠償を求めた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法3条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / 信条と均等待遇(レッドパージなど) |
裁判年月日 | : | 1994年3月31日 |
裁判所名 | : | 長野地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和51年 (ワ) 216 |
裁判結果 | : | 一部棄却(控訴) |
出典 | : | 時報1497号3頁/タイムズ863号79頁/労働判例660号73頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 西谷敏・労働法律旬報1348号6~25頁1994年11月25日 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則-均等待遇-信条と均等待遇(レッドパージなど)〕 本訴請求は、原告らと同学歴・同期入社者との間の比較において格差のある賃金相当分の支払いを求めるものであるところ、既に判断したように、被告会社の賃金制度の基本的性格は、職務、能力、服務対応の職務給制度にあるから、原告らは、単に自己の学歴及び勤続年数を主張立証するのみでは足りず、提供した労働が比較対象と少なくとも同質かつ同量であることの主張立証責任を有するものというべきである。右の理は、原告らの主張する被告会社の差別的査定の内容が各原告の実際の職務遂行能力等に比して、不当に低い職務に位置づけるなどしたこととすることから見ても、当然であり、賃金格差と差別的査定の因果関係立証の前提である。 しかし、既に認定したように被告会社において共産党対策を主要な労務対策としていたこと、千曲川電力所に対し、昇進・昇給面を含めた給与管理、特に人事考課を利用した対策を行うべきことを指示したこと、現に各原告と同学歴・同期入社者の間に著しい職級、賃金上の格差が存することを考慮すると、その主張、立証の程度は、具体的な職務内容、能率、勤務成績などについて、同学歴・同期入社者と思想、信条以外の全ての条件が同一であることまで主張立証する必要はなく、業績と能力に関して概括的、一般的におおむね平均的であることを窺わせるに足りる条件、例えば潜在的能力の存在、定められた職務を一応無難にこなしたこと、周囲と通常程度に協調していたこと、休務が多くはなかったことなどの主張立証をもって一応足りると解するべきである。このことは、比較対象者についての職務遂行能力等に関する資料がすべて被告会社の手の内にあり、これらの詳細についてまで原告らに主張、立証責任を負わせることは公平の視点から妥当でないことからしても、右のとおり解するのが相当である。 なお、原告らは、人身被害における消極損害の算定において、被害主体の個別的能力を問題とせず、平均的能力を有することを当然の前提とする例から、本件においても、与えられた職務に全く耐えられない等の特段の事情がない限り、各原告について、平均的な能力があったものと事実上推定すべきと主張するが、本件を人身被害の例と同視すべき根拠はなく、また、原告らの請求は、賃金センサス等によるものではなく、被告会社の賃金制度を前提として賃金差額を求めるものであるから、個別的な業績及び能力を捨象して右のような推定を行うとことは相当ではない。 【2】 他方、被告会社においては、その労務政策の内容、人事考課を利用した対策についての指示、人事考課における評定項目が抽象的であり評定者の主観的判断に依存していること、著しい職級及び賃金の格差等が既に認定されているから、被告会社の差別的査定と賃金格差の因果関係は一応推定されているというべきであり、右推定を覆すには、右著しい格差を正当化しうるに足りる特段の事情を主張立証する必要がある。 その主張立証方法には何ら制約はないものであるし、また被告会社として人事考課の機密保持及び同一職級に属する他の被評定者のプライバシー保持の必要性があることも考慮すると、被告会社において、各原告の評定結果及び他の被評定者の評定結果を具体的に示して主張立証しなければならないものではなく、これをしないからといって、当然に各原告の業績及び能力が平均以上であったとの推定を受ける性質のものでもない。被告会社が人事の機密及び他の従業員のプライバシー等を害さないような方法でより具体的に右主張立証をすることは必ずしも不可能ではないと思われるが、そのような方法をとるか否かは被告会社の訴訟追行上自由である。〔中略〕 6 本件について検討すると、既に認定したように、被告会社は、共産党対策をその労務政策の主要なものとし、共産党員に対する賃金差別意思をもって、各原告が共産党員ないしその支持者であるとの認定の下に、その人事諸制度の適用を通じて差別的査定を行い、これと一定の因果関係を有する著しい格差のある賃金を支払ってきたものであるから、その裁量権を濫用して、各原告の思想、信条を理由とする賃金その他労働条件について差別的取扱を受けない権利及び同程度の業績及び能力を有する他の従業員と同様に昇進、昇格していく期待利益を侵害し、また、前記認定の各行為(原告X1について理由第二の二2(三)、(四)、(七)、原告X2について同第二の二4(一)ないし(三)、原告X3について同第二の二5(三))により直接に当該原告の思想、信条の自由をみだりに侵害し、又は賃金以外の労働条件について差別待遇を行ったものであるから、これらの行為は、前記4の差別待遇禁止の原則に反して違法性を帯び、不法行為を構成するものというべきである。 |