ID番号 | : | 06284 |
事件名 | : | 賃金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 三陽物産事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 基本給のうちの本人給につき、非世帯主および独身の世帯主で、かつ本人の意思で勤務地を限定して勤務している者に、実年齢に応じた本人給を支給せず、実年齢より低い年齢の本人給を支給する措置は労働基準法四条の賃金差別に当たるとして、同年齢の男子従業員との賃金差額につき、その差額を請求した事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法4条 |
体系項目 | : | 労基法の基本原則(民事) / 男女同一賃金、同一労働同一賃金 |
裁判年月日 | : | 1994年6月16日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成3年 (ワ) 5511 平成4年 (ワ) 14509 |
裁判結果 | : | 一部認容,一部棄却,一部却下(控訴) |
出典 | : | 時報1502号32頁/タイムズ846号111頁/労働判例651号15頁/労経速報1532号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 橋本佳子・労働法律旬報1340号6~11頁1994年7月25日/細矢郁・平成6年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊882〕342~343頁1995年9月/水谷秀夫・平成6年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1068〕194~196頁1995年6月/水島郁子・民商法雑誌112巻1号115~124頁1995年4月/石井保雄・季刊労働法173号162~165頁1995年3月15日/浅倉むつ子・ジュリスト1052号87~92頁1994年9月15日/浅倉むつ子・労働判例百選<第6版>〔別冊ジュリスト134〕5 |
判決理由 | : | 〔労基法の基本原則-男女同一賃金〕 被告は、平成元年九月、本件給与規定に関して、従来の世帯主・非世帯主の基準とは別に、新たに勤務地域限定・無限定の基準を設けた際、原告X1を含め営業職に過去・現在とも従事しておらず広域配転の経験もない非世帯主及び独身の世帯主である女子従業員に対し、その勤務地域を限定して記入した勤務地域確認票を送付し、本人給を二六歳に据え置いたが、非世帯主又は独身の世帯主である男子従業員に対しては、営業職に過去又は現在実際に従事したかどうかを問わず、かつ、広域配転をしたかどうかにかかわらず、勤務地域無限定と記入した勤務地域確認票を送付し、実年齢による本人給を支給していたものであるということができる。他方、株式会社Aは、被告との合併準備のため、平成三年九月、原告X2及び同X3を含め営業職に過去・現在とも従事した経験のない非世帯主及び独身の世帯主である女子従業員に対し、その勤務地域を限定して記入した勤務地域確認票を交付したが、非世帯主又は独身の世帯主である男子従業員に対しては、営業職に過去又は現在実際に従事したかどうかを問わず、勤務地域無限定と記入した勤務地域確認票を交付したものであり、これに従って被告において、右各女子従業員の本人給を二六歳に据え置き、また、右各男子従業員の本人給を実年齢によって支給していたものであるということができる。 しかしながら、被告においては、男子従業員であっても、必ずしも営業職につくとはいえず、男子従業員の中にももっぱら内勤職に従事している者が相当数いるし、また営業職についても広域配転をしない従業員が多数いるのであって、広域配転の割合、とりわけ被告の業務上の都合による広域配転の割合は微々たるものであると認められる。ところが、被告は、男子従業員全員に実年齢による本人給を支給する理由として、「男子従業員は、営業につく可能性がある。営業につくと、被告の事業及び営業担当者としての資質の向上等からして、当然、広域での配転が必要不可欠である。」との認識を有していたことが認められるが(《証拠略》)、この認識は被告の実態から大きく隔たったものであるといわなくてはならない。また、被告は、新給与制度制定時現在、係長・課長代理(同等役職を含む)以下の営業を担当する者のうち、副主事以下の者に対しては月額二万三〇〇〇円、主事補以下の者に対しては二万円の営業手当を支給している(ただし、特殊時期〈例、中元・歳暮期等〉に特に繁忙を極める部署を担当する者には、繁忙月に限り、事業所長の申請により本社総務部長が認めた場合は、営業手当のほかに営業特別手当を加算し、支給することがある。)のであり、その額はその後増額されてきたのであり(《証拠略》)、被告が主張するような営業社員が負担する物心等の負担は、この営業手当により一応の配慮がされているとみることができるから、さらに基本給である本人給について二六歳相当の本人給で据え置くという差を設ける根拠は少ないというべきである。 結局、前記一で認定した勤務地域限定・無限定の基準が設けられるに至った経過をも合わせ考えると、被告は、中央労働基準監督署から世帯主・非世帯主の基準の運用について男女同一賃金の原則に違反する疑いがないように措置すべき旨の指導を受け、その検討を迫られていたが、勤務地域限定・無限定の基準が最低生活費の保障を主たる目的とする本人給を二六歳の額で据え置くことの合理的理由を十分に説明できないまま、従来、勤務地域限定・無限定の基準自体によって賃金に差を設けることはなかったにもかかわらず、被告の本件給与規定による取扱いを正当化するため、男女雇用機会均等法施行前、男子従業員には営業を含めた職種に従事させ、女子にはもっぱら内部勤務の職種に従事させることを予定して異なった採用方法をとってきており、女子従業員は、その後の採用者も含めて、すべて営業職に従事しておらず、過去現在とも広域配転を経験したことがないこと、そして女子従業員が一般に広域配転を希望しないことに着目し、女子従業員は勤務地域を限定しているとの前提のもとに、勤務地域限定・無限定の基準の適用の結果生じる効果が女子従業員に一方的に著しい不利益となることを容認し、右基準を新たに制定したものと推認されるのである。 3 以上によれば、被告においては、本人の意思で勤務地域を限定して勤務についている従業員に対して二六歳相当の本人給で据え置くという勤務地域限定・無限定の基準は、真に広域配転の可能性があるが故に実年齢による本人給を支給する趣旨で設けられたものではなく、女子従業員の本人給が男子従業員のそれより一方的に低く抑えられる結果となることを容認して制定され運用されてきたものであるから、右基準は、本人給が二六歳相当の本人給に据え置かれる女子従業員に対し、女子であることを理由に賃金を差別したものであるというべきであり、したがって、労働基準法四条の男女同一賃金の原則に反し、無効であるといわなければならない。 四 本件給与規定に基づく差額賃金請求権 1 本件給与規定は、【1】原則として社員の年齢に応じ別表に定める額を支給する、【2】適用年齢は実年齢二五歳まではみなし年齢(学齢)とし、それ以降は実年齢をもって支給する、【3】適用年齢は毎年四月一日をもって定める、としながら、【4】非世帯主及び独身の世帯主には所定の本人給を支給しないとの本件例外規定を付加しており、さらに、勤務地域限定・無限定の基準が付加された結果、被告が、それ以降、(一)家族を有する世帯主の従業員には実年齢に応じた本人給を支給する、(二)非世帯主又は独身の世帯主であっても、勤務地域を限定しない従業員については、同じく実年齢に応じた本人給を支給する、(三)非世帯主及び独身の世帯主で、かつ、勤務地域を限定して勤務している従業員については、実年齢が二六歳を超えても、二六歳相当の本人給を支給する、という運用をしてきたことは前記認定のとおりであるところ、世帯主・非世帯主の基準、勤務地域限定・無限定の基準は、いずれも労働基準法四条に違反し、無効であることは既に判断したとおりである。 そして、本件給与規定【1】ないし【3】によれば、本人給額は従業員の実年齢に対応して使用者である被告が毎年四月一日に決定すべきものとされ、現に毎年具体的に決定してきたことは被告の自認するところであって、各従業員に適用するに当たってこの上さらに被告の具体的な意思表示又は裁量が介在するものではないから、原告らの賃金請求権は、労働基準法四条、一三条の趣旨に照らし、本件給与規定【1】ないし【3】によって発生するものと解するのが相当である。 |