全 情 報

ID番号 06287
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 トヨタ工業事件
争点
事案概要  私的な花見会を催したこと等を理由とする懲戒解雇と退職金不支給につき、過去の労働に対する評価をすべて抹消させてしまう程の著しい背信行為はなかったとして、退職金の支払いを命じた事例。
参照法条 労働基準法89条1項3の2号
労働基準法89条1項9号
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限
裁判年月日 1994年6月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 13882 
裁判結果 認容,一部棄却
出典 労経速報1536号3頁/労働判例655号17頁
審級関係 控訴審/06413/東京高/平 6.11.16/平成6年(ネ)2875号
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
 3 右認定事実によれば、就業時間後に行われた私的な集まりというべき本件花見会について、緊急臨時部課長会議まで招集し、原告X1を問責する必要性があったかどうか疑問であるといわざるを得ない。定例の経営会議において、万一事故が起きた場合は時間外といえども会社の責任があるから注意するようにとの伝達がなされたことがあったことが窺え、また内々にA経営統括管理本部長から原告X1に対し、仕入業者と飲酒するときは被告会社で費用を負担するようにとの注意がなされていたことも認められるが、右のような公式の場で特に本件花見会を取り上げて問題にしたのは、唐突かつ厳格に過ぎるとの感を免れない。被告会社として原告X1らのとった行動を問責するには個別に注意する等、他のしかるべき方法があったはずである。被告会社のために精励してきたと自負していた原告ら第一営業部員の反発を招いた原因は被告会社にあると認められる。
 緊急臨時部課長会議で問責された翌日の四月一五日、原告X1は一旦出社したが早退し、また原告X2ら数名の第一営業部員が集団で出社しなかったことについては、就労義務、規律遵守義務を負っている従業員として軽率というべきである。しかし、原告X1がA経営統括管理本部長に対し、「気持ちの整理がつくまで有給休暇を取りたい。」と述べて退社したことには同情の余地があるといえるし、同原告が第一営業部員らを煽動した事実も認めることはできない。右社員らは、各自の判断で出社しなかったものと認められ、同日、原告X2を除き、電報による出社命令には応じており、被告会社が右欠勤により、業務活動において具体的損害を被った事実もこれを窺うことはできない。原告X2は、四月一五日の電報による出社命令は、帰宅が遅くこれに接することができなかったが、翌一六日には出社している。B、C及びDが二日間の出勤停止処分に止まったのに比し、原告両名について、管理者的地位にあることを考慮したとしても懲戒解雇とするのは、重きに過ぎるというべきである。また、四月二一日をもってなされた本件懲戒解雇は、原告らの弁明も聴取せずなされており、手続的にも瑕疵がある。
 4 以上に認定・判断したところによれば、原告両名について、過去の労働に対する評価を全て抹消させてしまう程の著しい不信行為があったということはできず、退職金不支給事由となるような懲戒解雇事由が存在するということはできない。