全 情 報

ID番号 06296
事件名 地位保全等仮処分申請事件
いわゆる事件名 新潟労災病院事件
争点
事案概要  労災病院が外来部門について夜勤や臨機応変の対応が可能な一般職員(看護婦)を配置する方針に基づき剰員となった期間の定めのある臨時職員たる「四号嘱託」を雇止めしたのに対して、これらの者が地位保全等の仮処分を申請した事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
裁判年月日 1994年8月9日
裁判所名 新潟地高田支
裁判形式 決定
事件番号 平成6年 (ヨ) 2 
裁判結果 一部認容,一部却下
出典 労経速報1537号3頁/労働判例659号51頁
審級関係
評釈論文 倉田原志・民商法雑誌112巻3号455~463頁1995年6月
判決理由 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 前記争いのない事実等及び右認定の事実によれば、債権者ら四号嘱託職員は、任免が簡易であり、勤務時間、賃金の面でも一般職員と明確な差異があり、債務者病院においては看護職員について過去にも雇止めの事例があったことは認められるものの、(一)債権者ら四号嘱託職員については職種は限定せず、更新期間の制限は設けず、産休、育休等の代替要員として予定され雇用期間の更新の限度は通算二年とされていた三号嘱託とは異なった運用がされてきたこと、(二)平成六年三月三一日までの継続勤務年数は、債権者Aが約一八年七か月、債権者Bが六年三か月、債権者Cが三年、債権者Dが一年一一か月であり、更新回数は、債権者Aが三十数回、債権者Bが一二回、債権者Cが五回、債権者Dが三回であるが、債権者Dを除く債権者らの継続勤務年数及び更新回数はかなり長期間及び回数となっており、債権者Dの継続的勤務年数も一年一一か月と短期間とはいえないこと、(三)債権者らの雇用時において雇用期間が満了をしたときに辞めて貰うとの説明を受けていないこと、更新時において事前に更新の有無、更新後の契約の内容につき交渉はなされていないこと、更新の際に交付される辞令、雇入通知書は更新日から一週間を経過して交付される場合もあったこと、(四)債権者らの仕事は、勤務時間は異なるものの、仕事の内容自体については一般の看護職員との差異はなく、時給(地域の賃金水準のみならず、責任の度合も考慮される。)についても更新を経るごとに上昇してきていることが認められる。しかして、これらの事実によると、債権者らと債務者との雇用関係は期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となったとまではいえないものの、雇用関係を継続することが期待される関係であって、雇用期間の満了により雇止めをするに当たっては、解雇に関する法理が類推され、雇止めが客観的に合理的理由がなく社会通念上妥当なものとして是認することができないときには、その雇止めは信義則上許されないものとなる関係にあると認めるのが相当である。そして、その場合には期間満了後における債務者と債権者らの法律関係は従前の労働契約が更新されたと同様の法律関係になると解するのが相当である。〔中略〕
 本件雇止めは、外来部門の看護婦について、病棟部門の看護婦に欠員等が生じた場合に備えて、夜勤等が可能な一般職員を配置し、また、外来部門についても臨機応変かつ的確な患者との対応をするには看護助手ではなく看護婦の配置が望ましいとの方針に基づくものであり、これによって剰員となった外来部門の四号嘱託を雇止めをしたものであって、このこと自体は、一応の合理的性が認められる。
 しかしながら、債権者らは、期間の定めのある嘱託職員であるとはいえ、雇用契約の継続が期待されていたのであるから、本件雇止めの理由が、債務者側の労災医療、地域医療の的確な遂行という公益を目的とする場合であっても、債権者の雇用の場を安易に奪うことは許されず、雇止めを回避するための相当の努力をすることが要求されると解するのが相当である。しかして、債務者としては、病棟(看護助手)、中央材料室(看護婦一名、看護助手三名)の四号嘱託職員につき任意に退職の意思がないかを確認をしていることは認められるものの、それ以外の雇止めを回避する方法を取っておらず、(例えば、外来に配置されることとなる一般職員である看護婦の一部を病棟勤務とする、あるいは、外来の四号嘱託職員については中夜勤ができるか否かを確認する等)、このような場合には、雇止めにつき客観的に合理的な理由があり、社会通念上妥当なものがあるとするに充分でない。もっとも、債務者は国の定員管理の拘束のもとに各労災病院の収支、患者数の実績を考慮しながら、定員の配置を決定していることが認められるが、国の定員管理の実態がどのようなものであるかの疎明は充分でなく、他の労災病院では、五〇床・二名の中夜勤の体制で、平成四、五年度において一六名(債務者が同六年一一月から配属を予定している人員)を超える病棟がかなりあることも考慮すると、国の定員管理があるから雇止めの回避可能性はないとすることはできない。現に、債務者病院E看護部長は債権者Aに対して、雇用の機会を提供する旨配慮することを伝えていることもこのことを裏付けるものというべきである。
 したがって、債務者の本件雇止めは信義則上許されないものといわなければならず、債権者らと債務者との間の法律関係は、従前の労働契約が更新されたのと同様の関係にあるものと解するのが相当である。