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ID番号 06335
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 株式会社山形県水産公社事件
争点
事案概要  船舶所有会社が、船舶の整備点検、機関の整備点検、冷凍装置の整備点検をそれぞれ別会社に発注し、各作業が行われていた際に、冷凍装置の整備点検を請け負った会社の従業員が冷凍装置バルブを誤って操作してアンモニアガスを噴出させ、機関の整備点検を請け負った会社の依頼により派遣され、同社の指揮下で労務に従事していた従業員が死亡したケースで、その遺族が、右船舶所有会社及びそこから整備点検を請負った各下請会社等を相手として損害賠償を請求した事例。
 水産公社が冷凍設備の整備を三社に発注したところ、A社の従業員の過失によりアンモニアガスが噴出しB社の作業員四名が死亡した事故につき、三社に分割発注するに当たり労働安全衛生法三〇条二項前段の指名を怠った過失があるとして、一審及び二審が損害賠償請求を認容した場合につき、右の指名と作業員の死亡に相当因果関係がないことを理由に原審が破棄・差し戻された事例。
参照法条 民法715条
民法709条
労働安全衛生法30条1項
労働安全衛生法30条2項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
労働安全衛生法 / 安全衛生管理体制 / 元方事業者・特定元方事業者
労働安全衛生法 / 労働安全衛生法違反と損害賠償
裁判年月日 1993年1月21日
裁判所名 最高一小
裁判形式 判決
事件番号 平成1年 (オ) 745 
裁判結果 破棄差戻
出典 時報1456号92頁/タイムズ816号194頁/労働判例652号8頁
審級関係 控訴審/06317/新潟地/昭61.10.31/昭和55年(ワ)431号
評釈論文 鎌田耕一・法律時報67巻10号84~87頁1995年9月/香川孝三・ジュリスト1057号116~118頁1994年12月1日/松村弓彦・NBL541号46~48頁1994年3月15日
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
〔労働安全衛生法-安全衛生管理体制-元方事業者・特定元方事業者〕
〔労働安全衛生法-労働安全衛生法違反と損害賠償〕
前示の事実関係によれば、本件事故当時、C船の機関室において、B社の作業とA社の作業が並行して行われたのであるが、もともとA社がアンモニアガスを取り扱う作業をするときはB社の作業を中断し、その作業員を船外に出すこととされていたのであり、本件事故当日Dらが行うことを予定していた作業内容にはアンモニアガス漏出の危険性のあるものはなく、本件事故の原因となったコンデンサーからの油抜きは、Dらの右作業内容には含まれていなかったものである。してみれば、仮に労働安全衛生法三〇条二項前段に基づき本件指名がされたとしても、その指名された者において、Dがその場の思い付きで予定外の危険な作業を行うことまで予測することはできないし、あらかじめ請負作業間の連絡調整をすることにより、B社の作業とA社の作業が並行して行われることを避けることができたともいえない。そして、このことは、たとえコンデンサーからの油抜きがA社の請け負った作業と関連性があるとしても同様である。また、指名された者によって同条一項三号所定の作業場所の巡視がされたとしても、右巡視は毎作業日に少なくとも一回行うことが義務付けられているものにすぎない(労働安全衛生規則六三七条一項)から、これにより、その場の思い付きでされたDの行為を現認することはほとんど期待できないものというべきである。したがって、上告人が本件指名をしなかったことと本件事故との間に相当因果関係があるとはいえない。
 これと異なる判断の下に原判決中被上告人らの請求を認容すべきものとした部分には、法令の解釈適用を誤った違法があり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかである。右と同旨の論旨は理由があり、その余の点について判断するまでもなく原判決中上告人敗訴部分は破棄を免れない。そして、本件については、被上告人らの民法七一五条、七一六条ただし書に基づく予備的請求につき更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すのが相当である。