全 情 報

ID番号 06337
事件名 地位保全仮処分異議申立事件
いわゆる事件名 ゾンネボード製薬事件
争点
事案概要  業績悪化による宣伝部門の廃止に伴い、同部門を担当していた管理職者が整理解雇され、右の整理解雇の効力を争った事例。
参照法条 労働基準法9条
労働基準法2章
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 労働者 / 取締役・監査役
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
裁判年月日 1993年2月18日
裁判所名 東京地八王子支
裁判形式 決定
事件番号 平成4年 (モ) 1480 
裁判結果 認可
出典 労働判例627号10頁/労経速報1499号14頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 緊急の必要性を充足していなくても、経営合理化のために行われる整理解雇であれば、解雇自由の原則に照らし、必ずしも直ちに無効とはいえないが、深刻な経営危機に直面した場合の整理解雇と比較すると、解雇によって帰責事由のない労働者及びその家族の生活を危うくすることもやむを得ないといえるだけの事情が存するかどうかがより慎重に吟味されるべきであり、企業が解雇を回避するための十分な努力を尽くしたか、合理的な人選を行ったか、あるいは解雇手続は相当なものであるかなど諸般の事情を考慮し、当該整理解雇が社会通念上是認し難い場合には、たとえ形式的には就業規則の解雇事由に該当するとしても、解雇権を濫用したものとしてその効力を生じないというべきである。〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 債務者会社及び薬品会社は、第一次解雇前においては、取締役の報酬カット、パートタイマーの雇止め、従業員の一時帰休、配置転換ないし出向、希望退職者の募集など整理解雇回避のための合理的な経営努力を行っておらず、平成三年の夏期賞与も例年並に支払っていること、医薬品の宣伝部門を廃止するとの方針を決めたのみで整理すべき人員数や配置転換等の可能性について真摯に検討しないまま、宣伝活動に職種を限定した労働契約を締結しているわけでもない宣伝部門の全従業員のみならず、過去に同部門に携わった者を一旦は解雇対象者としたうえ、さしたる理由もなくそのうち三名を非該当としており、右は恣意的な被解雇者の選定といわざるを得ないこと、第一次解雇の前において、某日に特別発表を行うと予告したに止まり、被解雇者に対して整理解雇という手段をとることを具体的に説明ないし協議しておらず、解雇通知後にようやく就職斡旋を行っていることが認められる。
 これに対し、債務者会社は、第一次解雇前においても、年度計画に経費節減を掲げ、出張費用の削減を行ったほか、売上増大を図るなど整理解雇回避の措置をとったと主張するが、売上増大や経費節減は、営利を追求する企業であれば特に経営不振の状態になくとも当然に企図することであって、経営合理化の必要がある場合に整理解雇を回避するため企業に求められる努力としては不十分というほかない。〔中略〕
 本件全疎明資料によっても、債務者会社及び薬品会社が第二次解雇の前に改めて人員整理の規模、人選方法について検討を加えた形跡はなく、第一次解雇の際の人選が恣意的なものである以上、第二次解雇もまた恣意的なものといわざるを得ない。
 よって、第二次解雇も、解雇を回避するための十分な努力が尽くされておらず、人選が相当なものでなく、社会通念上是認することができず、無効である。〔労基法の基本原則-労働者-取締役・監査役〕
 債務者会社は、債権者Aはいわゆる使用人兼務取締役であり、第一次解雇当時、使用人としての労務提供に対する賃金平均三八万六一六〇円及び取締役としての報酬一六万五〇〇〇円を毎月受領していたが、平成四年五月に任期満了により取締役を退任したから、仮に第一次及び第二次解雇が無効であるとしても、債務者会社には、債権者Aに対し、右取締役報酬に相当する金員を支払うべき義務はないと主張する。
 しかして、(証拠略)及び審尋の全趣旨によれば、債権者Aの給与明細表上「本人給」「職能資格給」などのほかに、「役員報酬」の記載があること(ただし、第一次解雇直前三か月間の給与明細表には役員報酬である旨の付記はなく一六万五〇〇〇円との金員のみ記載されている。)、債権者Aは、昭和六二年四月、工場長に就任した当初は製造管理責任者として生産予定表を作成し、注文量に応じた生産を達成させるためパートタイマーを含めた人員配置を行うなどの管理的業務にあたっていたが、取締役の地位に就いた後である平成二年六月までに、専務取締役の指示により、生産予定表作成などの管理的業務担当から外れ、工場内の人手が足りない部門の補強要員的な仕事を行い、平成三年二月以降は、軟膏の調整作業に従事していたこと、債権者Aは、第一次解雇の際、平成四年五月までは任期が残っていたにもかかわらず、株主総会の決議なくして取締役たる地位を解任され、その後、債務者会社から職務に就くことを拒否されていること、第一次解雇当時、Bグループのパートタイマーを除く取締役及び従業員の総数が三九名であるのに対し、取締役数は一一名に上っていること、債務者会社及び薬品会社においては、両会社の全取締役によって構成されるG11会議ないし部長会と称する取締役会のほかに、両会社の代表取締役社長二名、専務取締役一名、平取締役一名によって構成される経営本部と称する機関や、これに常務取締役二名を加えた六名によって構成されるK6会議ないし常務会と称する機関が置かれ、Bグループの経営全般に関わる意思決定の殆どは代表取締役らの主導の下右経営本部ないしK6会議で行われており、第一次及び第二次解雇を行うこともK6会議の構成員(そのうち常務取締役一名を除く。)によって決せられ、債権者Aを含むG11会議には付議されていないことが認められる。
 右事実によれば、債権者Aは、遅くとも平成二年六月以降、名目的に取締役の地位にあったに過ぎず、本件第一次解雇当時債務者会社から毎月受領していた報酬は、全て使用人としての労務提供に対する対価、すなわち賃金であると解され、債務者会社の前記主張は採用できない。