全 情 報

ID番号 06354
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 米軍横須賀基地発電所電気工事件
争点
事案概要  米海軍の監督・指導等を受けて米海軍基地で電気工として勤務する日本人従業員が感電事故を被ったことにつき、国(日本国)に対して安全配慮義務違反を理由として損害賠償を請求した事例。
参照法条 労働基準法第2章
民法415条
日米安保条約第6条に基づく施設・区域・日本国内米軍の地位協定12条4項
日米安保条約第3条に基く行政協定に伴う民事特別法1条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1994年3月14日
裁判所名 横浜地横須賀支
裁判形式 判決
事件番号 平成3年 (ワ) 66 
裁判結果 一部認容,一部棄却(控訴)
出典 時報1522号117頁
審級関係
評釈論文 宮島尚史・判例評論442〔判例時報1543〕228~232頁1995年12月1日
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
原告は、被告との雇用契約に基づき、米海軍横須賀基地勤務の発電所電気工として、CB-14開閉所のOCBの清掃・点検作業に従事したが、OCB内部には六六〇〇ボルトの高圧電流が流れ、開閉所にはOCB相互を結ぶ送電線路や足場等が交錯していたのであるから、その作業現場は、人の生命身体に対する危険が極めて大きい場所であった。したがって、原告を指揮監督し、その安全を管理していた者は、そのような場所で作業をさせるに当たり、雇用契約に基づく信義則上の義務として、作業の開始前にOCBへの電路を遮断し、原告が高圧電流に接触して感電することのないように安全な措置を講じておくべき義務があったというべきである。〔中略〕
 地位協定一二条五項には、「賃金及び諸手当に関する条件その他の雇用及び労働の条件、労働者保護のための条件並びに労働関係に関する労働者の権利は、日本国の法令で定めるところによらなければならない。」と規定され、基本労務契約には、日本人従業員の監督、指導、安全管理等は米軍側が行うものの、被告は、米軍による安全管理等が適正に行われるよう必要な申入れと援助等を行うことができると定められている。また、判例により、安全配慮義務は、「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきもの」と解釈されている。
 したがって、被告の見解のように、「米海軍基地従業員に対する安全配慮義務については、基本労務契約に基づき、被告との間に雇用契約が締結されたという法律関係に基づき、被告(日本国)と米海軍との間に特別な社会的接触関係に入ることにより生ずるものであり、安全配慮義務については、被告と米海軍の双方が負担することとなる。」ということができる。被告は、この見解に基づいて、「米軍側が被告の安全配慮義務の履行補助者となるのではない。」と主張し、「労働現場における具体的な安全配慮義務は、米軍側に委ねざるを得ないが、被告は、従前から在日米軍に対し、きめ細かな安全対策の確立による事故防止に万全を期するよう申し入れ、必要な援助も行ってきたし、在日米軍側においても、被告からの申入れに対応して具体的措置を講じてきたから、被告において安全配慮義務を懈怠したことはなかった。」と主張している。
 しかし、被告と米海軍の双方が負担する安全配慮義務が別個独立のものであって、それぞれの義務の範囲が明確に区分され、双方がそれぞれの義務を尽くせば足りると解釈するのは相当でなく、「米海軍基地では、被告が日本人従業員を直接指揮監督することができないため、米海軍が日本人従業員に対して直接の指揮監督を行うものとし、被告は、米海軍による安全管理等が適正に行われるよう必要な申入れと援助等を行うものとするが、それは、被告と米海軍が日本人従業員と雇用契約関係を持ったことにより、日本人従業員に対する安全配慮義務を尽くす方法として、それぞれの役割を内部的に定めたものにすぎないものであって、日本人従業員に対しては双方が一体となって安全配慮義務を尽くすべきものであった。」と解釈するのが相当である。