全 情 報

ID番号 06360
事件名 地位保全等仮処分申立事件
いわゆる事件名 駸々堂事件
争点
事案概要  定時社員が、使用者から経営悪化による人件費削減のために、時給切下げなどの労働条件の変更内容を記載しない白紙の新契約書の提出を求められたのに対してそれに応じたのは、それに応じなければ退職になると誤信したからであるとして、従来の労働条件による雇用契約上の地位の保全と賃金の仮払いを求めた事例。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法93条
民法95条
体系項目 労働契約(民事) / 成立
就業規則(民事) / 就業規則の適用対象者
裁判年月日 1994年3月31日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成5年 (ヨ) 399 
裁判結果 認容,一部却下
出典 労働判例670号79頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-成立〕
 新雇用契約の内容は、債権者にとって従来に比べ、非常に不利になるものであって、これまでの労働条件の変更の必要性や理由につき説明や説得はなされなかったのであるから、債権者において、これに同意せずに勤務を続けることも選べる余地があると理解したのであれば、これに同意しなかったか、少なくともその点につき質問するなどしてその上で決定したと解されるが、それらの質問さえしておらず、また、右Aは審尋の際にも、定時社員が新雇用契約書を提出することを「続ける」と表現し、当時も定時社員(B)が新契約書を提出することを「続けます」と表現していたと述べ、当時債務者側においても定時社員側においても、新雇用契約に応じないでも勤務を続けることができるとは理解されていなかったものであって、債権者は、新雇用契約に応じ、新雇用契約書に署名捺印しなければ解雇される、あるいは、退職しなければならないと誤信して、新雇用契約書を提出したものということができる。
 そして、債権者の新雇用契約及び新雇用契約書の提出による新労働条件への変更に対する合意は、契約の重要な要素もしくは明示された動機に錯誤があって(右Aは、債権者が新雇用契約書を提出すると述べた際、「とりあえず応じといて、それからのことはまた考えたらいいわ。」と述べており、右Aも債権者と同様、応じなければ退職を余儀なくされると解していたか、少なくとも、債権者がその旨誤信していることを知っていたものであって、債権者と債務者との間に、新雇用契約に応じなければ働き続けられない旨明示されていなくても、これと同視し得る。)無効であるというべきである。
〔就業規則-就業規則の適用対象者〕
 債務者は、債務者においては定時社員の新しい就業規則である「定時社員規則」が平成四年一二月一日から適用されていると主張するが、右一の事実によれば、債務者においては、労働条件の変更実施については、各個人から同意を得るという方針を定め、新雇用契約の締結の手続を踏んだものであって、これに同意しなかった者(前記C、ただし一一月末に労働組合に加入)は従来の労働条件のまま勤務させており、従来からの労働組合員についても、組合の同意が得られていないことから新就業規則を適用せず、従来の労働条件のまま勤務させているものであって、債務者においては、右新就業規則は、少なくとも、労働条件の変更に同意しなかった者との間では、いまだ実施されない扱いとなっていると解される。そして、債権者については右二のとおり、その同意は、錯誤により無効とすべきものであるから、債権者は従来の労働条件による雇用契約上の地位を有するものと解するべきであって、以上によれば、その地位の保全の必要性もまた認められる。