ID番号 | : | 06364 |
事件名 | : | 地位保全及び賃金仮払仮処分申立事件 |
いわゆる事件名 | : | 損害保険リサーチ事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 旭川市に勤務する損害調査会社の調査員が病気軽快後の復職の話合いで退職願を提出したが、それは東京地区への配転を示唆され、それを拒否した場合には懲戒解雇されると告知されたものであり、右懲戒解雇の告知が強迫に当たるとして、退職の意思表示の取消を求めていた事例。 |
参照法条 | : | 民法96条1項 労働基準法2章 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 退職 / 退職願 / 退職願と強迫 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠 |
裁判年月日 | : | 1994年5月10日 |
裁判所名 | : | 旭川地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成5年 (ヨ) 79 |
裁判結果 | : | 一部認容(確定) |
出典 | : | タイムズ874号187頁/労働判例675号72頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕 債務者は、就業規則一四条に基づき、業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は、一般に、労働者の生活関係に少なからぬ影響を与えずにはおかないから、使用者の転勤命令権は無制約にこれを行使することができるものではなく、これを濫用することの許されないことはいうまでもないところ、当該転勤命令につき業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせる場合であるとき等、特段の事情の存する場合でない限りは、当該転勤命令は権利の濫用になるものではないというべきであり、右の業務上の必要性についても、当該転勤先への異動が余人をもって容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当ではなく、労働力の適正配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤労意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定することができる。 〔退職-退職願-退職願と強迫〕 七月七日の協議及び七月三〇日の協議の際のA次長による右発言内容は、発言の内容自体として、東京地区への転勤を承諾しなければ懲戒解雇になり得る、あるいは、懲戒解雇になるという、債権者の生活上に重大な不利益を及ぼす事柄の告知である上、七月三〇日の協議の際には、A次長がかなり語気荒く債権者に対して話しかける場面が存したこと(甲一一、乙二三)、同日の協議において、A次長が、同日四時の飛行機で東京に戻るので、債務者が同日に提示した事項等につきイエスかノーかで答えるように促し、いくつかの質問をしたにもかかわらず、債権者からは何の返答もないという状況下で、最終的にA次長から渡された便箋に本件意思表示を記載したこと(争いのない事実、甲一〇、乙一四)を総合すれば、七月七日の協議及び七月三〇日の協議の際のA次長による右発言は強迫行為に該当し、債権者は右発言に基づき、懲戒解雇されることを避けるため、本件意思表示をなしたものと一応認めることができる。〔中略〕 債権者がなした本件意思表示は、強迫によるものといわざるを得ないのであって、前記第二、一、3記載の取消しの意思表示により、債務者との関係においても無効というべきである。 |